「その白銀の髪に、真珠のティアラを乗せて……私の隣を歩いて欲しいと思ってしまったのです」

「っ……!?」

ティアラはアウストリア帝国では皇后や皇太后──つまり、君主の本妻となった人間だけが被ることが許されていた。そのしきたりを隣国の王太子であるフェルナンドが知らないはずがない。

「貴女を一目見た時から、心を奪われてしまいました。我が妃になっては頂けませんか? クローディア皇女殿下」

フェルナンドはクローディアの前で跪くと、ジャケットの内側から親指の爪くらいの白い石のようなものを取り出し、クローディアの掌に握らせた。

これは何かと瞳で問うクローディアに、フェルナンドは真珠という貝から採れる宝石の一種だと答えた。

「私など、真珠で交易をしているだけの国の王子にすぎません。ベルンハルト公子や皇族の方のように、容姿も才能も恵まれておりません。ですが、貴女を世界の誰よりも幸せにするとお約束いたします」

クローディアは手の中にある小さな純白の宝石へと視線を移した。初めて見た真珠は、想像よりもずっと小さかったけれど、雪のように白く艶やかでいて、清らかな光を放つものだった。

「……これが真珠なのですね」

クローディアはフェルナンドを見つめ返した。

控えめだけれど美しいこの宝石が採れるオルヴィシアラという国はどんなところなのだろう。人々はどんなものを食べて、どのような生活をしているのだろう。

そう思ったクローディアは、ドレスの裾を持ちフェルナンドに深く頭を下げた。