──大陸歴一〇〇〇年。

大規模な収穫祭が行われた頃、帝国はオルシェ公ラインハルトを使者とし王国に遣わせ、王国の第二王子ヴァレリアンを皇女クローディアの夫君にしたいとの縁談を持ちかけた。

無論王国はこれを承諾した。
経済力、軍事力、全てにおいて優れ、今や大陸一の国であるアウストリア帝国と縁を結ぶのはメリットしかないからである。


それからひと月後、帝国の首都シヴァリースの中心に聳え立つアウストリア皇城の大聖堂にて結婚式が行われた。

参加者は両国の皇族、及び王族、国家に仕える最上位の政務官と軍務官、貴族の当主であった。

盛大に行われた式にて、人々の目は新郎新婦に釘付けだったという。

絶世の美女と謳われていた深窓の姫君と、日の目を見ることはないと思われていた第二王子の結婚。誰ひとりとして予想できなかったその組み合わせは、大陸中に知れ渡ることとなった。


そんな二人の幸せを、誰もが願う式の最中。会場の片隅で新郎新婦を眺めていた新郎の兄・フェルナンドは、ひとり静かに微笑んでいた。

「──私から逃げられると思うなよ。クローディア」

青色の瞳を三日月のように細めながら、フェルナンドはそう呟いた。それは盛大な拍手に掻き消されたが、胸の内にあった火は勢いを増し、凄まじい炎へと化していくのだった。