それから館内を一通り見て回った二人は、テラスで軽食を取ってから帰路についた。外はもう日が沈み始めており、夕陽が二人のひと時の終わりを報せているかのようだ。

このまま特に会話もなく終わってしまうことに、クローディアは寂しさを感じていたが、頬杖をつきながら外を眺めていたリアンが突然馬車を止めるよう指示を出した。

「ちょっと寄り道してもいい?」

悪戯を企んでいそうな子供のように笑うリアンが、クローディアに手を差し伸べる。その手に手を重ねたクローディアは、馬車を降りた先に飛び込んできた景色を見て息を呑んだ。

「わあ……!」

馬車を降りると、外は橙色で満ちていた。西空は淡い赤黄色に染まり、その下に息づく木々や一面の小麦畑は金色に輝いている。

「ごめん。ただ通り過ぎるのが勿体ない気がして、降りちゃった」

「謝らないで、リアン。こんなに綺麗な夕陽、初めて見たわ」

リアンはクローディアに気に入ってもらえたことが嬉しかったのか、柔らかな微笑みを浮かべると手を引いて麦畑の間にある細道を歩き出した。

帝国ではもう時期麦の収穫の季節となる。そうすれば大規模な収穫祭が開かれ、初物の葡萄や柿、林檎など、たくさんの美味しいものが市に並び出すだろう。

ふとクローディアは足を止めた。道の脇に、枯れた花が落ちていたからだ。それを屈んで拾い上げたクローディアは、触れたら崩れ落ちてしまいそうな茎にそっと触れると風に乗せた。