「……この絵…」

クローディアの頭上──入り口の内側の高い場所に飾られているものをリアンは見つめていた。何があるのかとクローディアも後ろを見上げる。そこには、とても美しい絵画が飾られていた。

その絵は月夜を背景に、二人の男女が描かれていた。男は冠を、女はティアラを被っている。どこかの国の国王夫妻だろうか。

「リアン、この絵を知っているの?」

クローディアの問いかけにリアンは頷いた。

「知っているも何も、この絵は…」

「──その絵、お美しいでしょう? 」

二人を見守っていた館長がにっこりと笑う。そうして懐かしむような眼差しで絵を見上げると、口元の髭を撫でながら口を開いた。

「今から三十年ほど前に、アドニス陛下が隣国オルヴィシアラより贈られたものなのです。大昔の王国の国王夫妻の肖像画だそうで」

館長の言葉に、リアンは目を見張る。

「…国王なんて初耳。国じゃ神だ神だって皆崇めてるだけなのに」

「我が国には、国王夫婦と伝わっております。アターレオ国王陛下と、そのお隣はスタンシアラ王妃だそうです」

二人の会話を聞いて、クローディアは今一度絵画を見た。リアンにとってのこの絵は“国民が信仰している神”だが、この国にとっては隣国より贈られた大昔の国王夫妻の絵だったのだ。リアンが驚くのも無理はない。