そんなクローディアを見て、リアンはくすっと笑った。寂しいと言って、扇で顔を隠されてしまったら──暴きたくなってしまう。今どんな表情をしていて、どんな気持ちでそれを口にしたのかと。
リアンはクローディアの細い手首を掴むと、ゆっくりと下へ動かし、顔を覗き込む。クローディアの頬はほんのり赤く色づいており、菫色の瞳は窓の外を見つめていた。
自分も寂しかったよ、と返そうと思っていたリアンは、開きかけた唇を閉じて、掴んでいたクローディアの手を離した。
何故そうしたのかと訊かれたら、肺の奥辺りに痛みがあったからだ。そのまま触れていたら、息をするのが苦しくなってしまいそうだった。なぜなのかは分からないが。
そうして暫くの間、カラカラと動く馬車の音を聞きながら、移り変わる景色を楽しめるようになった頃。クローディアはゆっくりとリアンへ視線を移し、口を開いた。
「…あれからどうしていたのか気になっていたから、会えて嬉しいわ」
──あれから。こうしてクローディアがリアンと面と向かって話すのは、フェルナンドが帰国する数日前に開かれた晩餐会の後以来だ。襲いかかってきたフェルナンドから、リアンに助けられた。
あの時はまだリアンは歩くことで精一杯で、クローディアを部屋の近くまで送り届けた後、寝泊まりさせてもらっていた部屋に辿り着く前に倒れ、意識を失ってしまった。
格好つけておきながら、結局いつもそのまま貫けずにいるリアンは、恥ずかしいからと言ってその件についてはクローディアには伏せてもらったのだが。


