馬車が動き出すなり、クローディアは扇を広げた。知らずのうちに頬に熱が灯っていたのだ。男性と二人きりで馬車に乗り緊張しているからだと思うが、今日の自分はいつにも増して変な感じがした。
「…なんか久しぶり。ディアと話すの」
小窓から吹き込んでくる風に、リアンは目を細めている。その横顔はとても穏やかだ。
「そうね。ずっとローレンス兄様に独り占めされていたもの」
「それ、寂しかったってこと?」
リアンの問いかけに、クローディアは息をするのを忘れ、口を開けたまま固まった。
寂しかったのかと聞かれたら──その通りだ。怪我の具合が良くなってから、リアンはローレンスに連れ出されてばかりで、クローディアとは五日に一度くらいの頻度で挨拶をするくらいだった。
話したいことがあったわけではないが、クローディアは兄たちよりも先にリアンと出逢ったのだ。兄の方がリアンと仲良くなっていたら、なんだか置いて行かれたような気持ちになる。
「…顔を見れていなかったもの。話だってしていないし」
「顔なら、何度か招待して頂いた夕食会で見なかった? 挨拶もしたし」
「それだけでは、寂しいわ」
そう呟いて、クローディアはハッとした。この口は今、とんでもないことを言っていた気がする。面と向かって会って話せなかったのが寂しいだなんて、家族にすら言ったことがないというのに。
クローディアは慌ててリアンから目を逸らし、ぎゅっと目を瞑った。


