その背を見送ったリアンは、まさかクローディアと行くことになるとは思わず、身嗜みは大丈夫か今一度全身を確認し始めた。
「どうかしたのかね? 殿下よ」
「あ、いえ、その……変なところはないかなと」
「ひとつもないとも。今日の殿下は輝いている! この僕が言うのだから、自信を持ってくれたまえ!」
自信ってどうやって持つんだっけ、とリアンは息を吐いた。この変わり者な皇弟殿下といると、どうも調子が崩されてしまう。
だがそれは不思議と心地いいもので、こんな兄がいてくれたら、きっと楽しい日々を送れただろうと思うほどだ。
無意識に俯いていたリアンへと、ローレンスの手が伸びる。わしゃわしゃと頭を撫でられたリアンは、大きく瞬きをしながらローレンスの顔を見上げた。
「皇族たる者、人の目がある場では、常に前を見据え、決して下を向いてはならない。これは、我が祖父が教えてくれたことなのだが…」
リアンはゆっくりと姿勢を正し、ごくりと喉を鳴らした。
ローレンスの祖父は、二代前の皇帝陛下だ。その名は名君として大陸中に名を馳せていたから、王宮の隅で育ったリアンでも知っている。
(…格好悪いな。俺)
リアンは心の中で溜息を吐いた。リアンは王子だが、金髪で生まれたせいで、王族の子供が受ける教育を受けさせてもらえなかった。
幸い、生まれた時から傍に居た母親代わりだった女性が、恥ずかしい思いをすることがないよう厳しく躾けてくれたお陰で、こうして外に出ても嫌な思いをしたことはなかったのだが。


