「殿下は真珠よりも、この紫の薔薇が似合う」
リアンは絶句した。ローレンスが変わり者だとは聞いていたが、まさか花を贈られ、女性に囁くような言葉まで言われるとは。
苦笑をしているクローディアを見れば、ローレンスに他意はなく、純粋にそう思って言っていることだと理解はできたが、飲み込むまで時間がかかった。
しばしの沈黙ののち、リアンは口を開く。
「……お世辞でも、嬉しいです」
寧ろお世辞であったのなら、笑って受け流すことが出来たのに、とリアンは心の中で項垂れた。
あの事件以来、特にリアンを親切にしてくれたのが、皇帝の弟であるローレンスだった。
皇帝ルヴェルグもその弟とエレノスも何かと気にかけてくれていたが、ローレンスは頻繁にリアンの顔を見に来ては外に連れ出し、楽しい話を聞かせてくれた。ひっそりと生きてきたリアンにとって、ローレンスが教えてくれたものは何もかもが新鮮だった。
今日、二日ぶりにリアンの元を訪れたローレンスは、帝国の貴族のような煌びやかな格好をさせて、城内を散策していたのだが、その先で二人はクローディアとばったり会ったというわけだった。
「ふむ、芸術か。帝国の文化は僕よりもエレノス兄上の方が詳しいのだが、兄上は忙しそうだからな…」
ローレンスは顎に手を添えながらしばしの間考え込んでいたが、何かを閃いたのかクローディアを見る。