ローレンスの薔薇園の花たちが満開になった頃、フェルナンドはオルヴィシアラに帰国した。

あの一件以来顔を合わせないようにしていたクローディアは、体調不良を理由に見送りを断り、自室で静かに過ごしていた。

何度かフェルナンドから手紙が届いたが、それらは全て目を通す事なく暖炉の火に焚べた。

フェルナンドは隙あらば事を起こしそうな人間だが、帝国内ではあれ以上皇女に手を出せないことを身を以て知ったのか、それ以上は何もしてこなかった。


嫌な人間が去ってから半月後、侍女のアンナを連れて庭園を散歩していたクローディアは、その帰り道でローレンスとヴァレリアンに遭遇した。


「おや、ディアではないか。ご機嫌いかがかな?」

意外な組み合わせの二人にクローディアは驚いたが、すぐに笑みを浮かべて軽くお辞儀をした。

「ご機嫌よう、ローレンス兄様。ヴァレリアン殿下」

ローレンスは今日はオフなのか、シンプルなブラウスに黒の細身のパンツというラフな格好をしていた。

その隣にいるリアンは帝国式と呼ばれているデザインの上着を羽織っていた。その違和感のなさに驚いたクローディアは、リアンに見入っていた。

「…ご機嫌麗しゅう、クローディア皇女」

リアンは見つめられるのが恥ずかしかったのか、少し困ったように微笑むと、助けを求めるようにローレンスを見上げる。

ローレンスはリアンの肩に手を置くと、満足げな顔をしながら語り始めた。