時が戻る前、クローディアはリアンのことを知らなかった。その名も、その手の温度も、真っ直ぐな瞳も光り輝くような髪も、声も。

だが、今は知っている。出逢えなかった人にこうして出逢え、二度も三度も命を救われたのだ。

そんなリアンが、クローディアを助けたせいで、王太子でもあるフェルナンドに叛かせてしまった。

兄に暴力を振るい、国教を批判する発言をしたことから、下手をしたら反逆罪に問われてしまうかもしれない。

「……最低だな、俺。ディアに気を遣わせて」

顔を上げたリアンは、力なく微笑みながら差し出された手をじっと見つめていた。その手は取らない、取る資格などないのだと訴えるような弱気な表情だ。

クローディアは身を屈め、リアンと目線を合わせると優しく笑いかけた。

「それは違うわ、リアン」

金髪に青い瞳を持つ、オルヴィシアラの第二王子様。その美しい容姿のせいで、これまで数えきれないくらいに辛い思いをしてきたのだろう。クローディアと出逢った時はフードで顔を隠していたから。

だが、今はしていない。何も隠さずに、ありのままの姿で真っ直ぐにフェルナンドと対峙していた。クローディアを守ってくれた。

そんなリアンにクローディアができることは、リアンがくれたものにお返しをすることだ。

「笑って欲しいわ、リアン。せっかくの美人が台無しよ?」

予想外すぎる言葉を贈られたリアンは、何度か瞬きをしたあとに「は?」と素っ頓狂な声を出した。