話したくないわけではなかった。ただ、話す勇気がないだけだ。クローディアがそういう人間だとローレンスも理解しているから、次々と言葉を放っているのだろう。

「…前にディアが寝起き姿で僕の所に来るなり泣いていた時、ディアはオルヴィシアラがどうとか言っていたのだが、あの時から殿下と面識があったのかね?」

クローディアは瞳を揺らした。ローレンスはクローディアが目醒めた日のことを憶えているようだ。

辛くて苦しかった日々を超え、命を落とし──過去へと時が舞い戻ったあの日、恋しくてしょうがなかった家族を前にしたら、クローディアは泣いてしまった。

その時の情景がローレンスは忘れられなかったのか、此度の一件にオルヴィシアラの人間がいたことから結びつけたようだ。

「…ない、わ…」

「ならば何故、ディアは泣いていたんだい?」

平静を装って声を絞りだしたクローディアを見下ろす目が光る。確かめるというよりも、答え合わせをするかのような口調で問われたクローディアは、そっと唇を閉じた。

ローレンスは鋭い。何か言おうものなら、すぐに脆い箇所を見つけて突いてくるだろう。それならば何も言わない方が、この場はやり過ごせるのではなかろうか。

それでは駄目だと思いつつも、何一つ勇気を絞り出せなかったクローディアは、気づけば俯いていた。