夕陽が射し込む長い回廊を、クローディアはローレンスと歩いていた。窓辺から吹き込む風が、季節の花の香りを運んでくる。

自ら育てるほど花が好きなローレンスは、髪が風に靡いて乱れていることにも気を留めずに、匂いに酔いしれている。

ふいに、ローレンスは足を止めた。釣られるようにクローディアも足を止め、兄を振り返る。

「聞いてもいいかね、ディアよ」

ローレンスは目に掛かった髪を払いのけると、柄にもなく真剣な面持ちでクローディアを見つめていた。

「…ええ。どうなさったの?」

「先日のヴァレリアン殿下が庇ってくださった日のことだが、事件が起こる前、ディアはフェルナンド王太子殿下に話しかけられていたそうだね。あの時、外に出たのと関係があるのか聞きたくてね」

「……それは、あの…」

言葉を濁したクローディアを見て、ローレンスは安心させるように微笑みかける。優しい箱庭で育ったクローディアは素直で純粋だ。すなわち誤魔化すということを知らない。

吃ったのを見て、ローレンスは自身の予想が当たっていたことに胸を痛めた。

とはいえ、聞きたいことはいくつもあるが、青褪めていくクローディアを前にあれやこれやと聞いていいものなのだろうか。

エレノスならばすぐに引き下がるだろうが、気になったらとことん調べてしまう思考のローレンスはクローディアの頭に手を置いて、ゆっくりと撫でた。

「話したくなかったらいいのだよ、話さなくても。だが、話してくれないと、力になってあげられないこともあるだろう?」

クローディアは小さく頷いた。次いで恐る恐る顔を上げ、ローレンスの紫色の瞳を見つめた。