俯いたクローディアへとエレノスの手が伸びる。熱がないか確かめるのか、エレノスはクローディアの額に触れ、目線を合わせるように屈むと、菫色の瞳をじっと覗き込んだ。

「…気づけなくてすまない。ゆっくり休むんだよ」

クローディアは返事の代わりに小さく頷くと、心配で堪らないという表情で見つめてくるエレノスに背を向けた。

本当は仮病なのだと言って、その胸に飛び込んで、全てを話してしまいたかった。
だが、それでは駄目なのだ。兄に甘えてばかりでは強くなれない。

そんなクローディアを見ていたローレンスは、後ろ髪引かれる思いで妹を見送るであろうエレノスの肩に手を置いて微笑みかけると、クローディアを先導するようにドアノブに手を掛けた。


「では僕がディアを送っていこう」

「頼んだよ、ローレンス」

ローレンスは個性的な笑い方をすると、クローディアと共に部屋を出て行った。残されたエレノスはクッションの下に隠していた書類の束を取り出すと、ゆっくりと息を吐いた。

「皇爵様? どこか具合でも?」

「いいや、私は元気だよ。…ただ少し、自分の不甲斐なさに嫌気が差してね」

ふ、と。エレノスは消えてしまいそうな微笑みを飾ると、窓辺に歩み寄る。その目は吸い込まれるように夕陽を映していた。

この男──皇弟エレノスは、クローディアに元気がないと自分も元気が無くなってしまうという、困った一面があるのだ。