「…違うと言ったら嘘になる」

師の問いかけに気づくことがあったのか、ルヴェルグは今一度考え込むような素振りを見せる。何年、何十年が経っても変わらず師の言葉に耳を傾ける皇帝の姿を見て、グロスター宰相は微笑んだ。

「晩餐会の件は賛成ですが、陛下の願いは胸の内で留めていただきたく思います。いつか、ヴァレリアン殿下が…あの国にいるのが辛い、と我々に打ち明けてくださる日が来たら、その時に手を差し伸べるのが良いかと」

意見を求めるために話の場を設けておきながら、ひとりで先に進んで行こうとしていたのだ。その手を引いて留めるのは師の役目であった。

「そうだな。本人の口ではなく、他人からの情報だけで先走ってしまった。すまない」

「兄上は優しいですからね」

ローレンスがすぐにフォローを入れ、用意していたお菓子を皆に勧めることによって、室内は和やかな雰囲気に戻った。

話がついたからか、エレノスが一番に腰を上げた。

「フェルナンド王太子殿下は五日後に帰国されるそうなので、その前に食事にお呼びしましょうか?」

「ああ、そうしてくれ」

エレノスの提案にクローディア以外全員が快く頷いた。

フェルナンドの顔すら見たくないクローディアは、それを顔に出さぬよう努めながらふらりと立ち上がる。

「…私は部屋で休むわ。ごめんなさい、あまり具合がよくなくて」

フェルナンドの名が出た途端に体調不良を訴えたと思う者はいなかった。元よりクローディアは病弱だ。連日の疲れが出たのだろうと皆考えた。