「へっ? ……っ、きゃ」




またたく間に、手首をひとまとめにされてしまう。

手錠をかけるみたく、わたしの両手首を掴んだ郁がわたしをじっと見下ろして。




「ほら、抵抗。できるなら、どーぞ」

「で、できるってば」




ふんっ、と力をこめて逃れようとするけれど。

郁の体はびくともしない。


それどころか、余裕の笑みを浮かべている。




「ふ、ぬぬ……っ」




ねじったり、よじったり、左を向いたり、右向いたり。

なんとか振りほどこうとするけれど、全然うまくいかない。



顔を真っ赤にさせながら格闘しているうちに、昨日のできごとが、ふとよみがえってくる。




郁の腕のなかに囲われて、身動きがとれなかった、あの時間のこと。



あのときわたしを抱きしめた力も、今わたしの手首を捕まえている力も、びっくりするくらい強くて、わたしは戸惑ってしまう。

だって、なんだか、郁が知らない男の子みたいに見えて────。




「せーら」



ふと名前を呼ばれて、なにも疑わずに、素直に顔を上げると。



「……!」




目と鼻の先に郁の顔。

吐息がふれるほどの至近距離に息をのむ。