我ながら卑屈な発言だと思う。でも、もう言った言葉は消せない。
「それは違う」
きりっとした真剣な眼差しで恭一は言った。
「そういうことじゃない。…みちるさん、今日のこの店のコース料理のために、俺が何度確認の電話を入れたかわかるかい」
「は?」
「四回は入れた。料理にアルコールを使わないように、と念には念を押して四回だ」
あ、とみちるは合点がいった。
「主任が心配しているのは…つまり、『アレ』のことなんですね?」
恭一は、こっくりと頷いた。
「ウェルカムスイーツの企画は、以前からあったんだ。ただ、俺の『アレ』があると、同僚や部下との長旅は非常に危険だ。いつアルコールを口にして、『アレ』が起こるかわからない。しかも、お菓子の試食の旅だ。試食したお菓子にアルコールが入っていたら」
「それは、かなり…ヤバイですね」
ごくりと息をのんだ。どんな世界にも善良ではない人というのがいるものだ。恭一のミニサイズ化を面白がって、動画に撮り、ネットに流す輩がいないとは言い切れない。いや、いる可能性の方が大きいだろう。
「主任、じゃあ、旅での私の役目というのは、ひょっとして」
「うん。俺がアルコールを口にして、小さくなったら、間髪居れずに俺の頭をはたき、普通サイズに戻してほしい。瞬間的なことだから、元に戻す係さえいれば、なんとか切り抜けられると思うんだ」
「でも…だいぶ危険ですよ。うまくいくかどうか…」
みちるは心配を露わにした声を出さずにはいられなかった。
「ホテル北都と他所のホテルとの差別化を計りたい。どうしてもやりたい企画なんだ。そのためには、みちるさんの手助けが必要だ。それに君だってお菓子は好きなようだし」
「まあ…お菓子屋の娘、ですから」
父の洋二郎は、お菓子に関して研究熱心だった。話題となったお菓子をいち早く入手し、食べては分析していた。そのせいで、いつも木内家にはお菓子があふれていて、みちるの舌も肥えた。
自分でお菓子作りにはまったこともあったけれど、有名店のお菓子には到底勝てず、お菓子作りは趣味程度にとどめた。自然と子供の頃の夢はお菓子屋さんから本屋さんになった。解雇になってしまったけれど。
つい数日前まで、職を探して履歴書を書きまくっていた。不採用ばかりで、好き嫌いは言っておられず、気の乗らない事務の仕事にも応募していた。
それを考えたら、本の次に好きなお菓子に携わる仕事ができるのは、願ってもないことなのではないか。親のコネをつかって、花園製菓の洋菓子店にねじこんでもらうのとは、ワケが違う。
お菓子をめぐる旅か…面白そうだな…。
そんな気持ちが、じわりとわいてきた。
「それとも…俺との旅は気詰りだろうか」
「えっ」
恭一が、自信のなさそうな声でそんな事を言うのでびっくりした。いつでも自信にあふれ、てきぱきと仕事をこなしていた恭一とは思えなかった。
私が、思っている以上に、主任、ピンチなのかな…。
恭一の私生活を想像してみる。ありとあらゆる場面で、アルコールの入っていない方を選択しなきゃいけない。それだけでくたびれてしまうだろう。
そんな恭一が、やりたい企画があり、みちるの助けを必要としている。
みちるは、目の前のコーヒーをごくんとひと口飲んだ。
「わかりました。そのお菓子めぐりの旅、お供させてください」
《 恭一SIDE その2 》
「恭一さんも、ちょっと気分転換が必要だと思うのよ」
実家でお茶を飲んでいると、母から出し抜けにそう言われた。またいつもの観劇にお供するパターンか、と思って聞き流していると、母は続けた。
「ほら、花園製菓さんって知ってるでしょう」
「ええ。以前から、父さんがよく一緒にゴルフに行ったりと、仲良くしてもらってるところでしょう」
「そうなの。そこのお嬢さんがね、お仕事を辞めたそうなの」
「はあ」
お嬢様育ちが社会に出て、仕事についていけなかった。よくある話だ。
「結婚願望はない、って言ってたそうなんだけど、まあ無職のうちに、お見合いでもさせようかって」
「はあ」
「その方、本好きでいらっしゃるの。恭一さんも本が好きじゃない。本屋さんになったくらい好きでしょ。ね、恭一さん、そのお嬢さんとお見合いしなさい」
「は?」
「急な話なんで、身上書きや写真はないけど、花園製菓さんの娘さんなら言うことないわ。娘さんが再就職されたら、もうこの話はなくなりそうだし…このタイミング、逃さないほうがいいと思うのよ」
母はにこにこと話した。小柄で控えめに見えるが、ところがどっこい、実は影の権力者なのだ。母がこう、と決めたら、それにさからうのは難しい。
「恭一さんがね、この話に乗ってくれたら、私も、もうあの方のお話しはしないわ」
俺は、飲んでいたお茶をごくりと飲んだ。俺がつっぱねると思っての交換条件。さすが母だ。ぬかりない。俺は湯のみをテーブルに置いて言った。
「お見合いの席は、ホテル北都のレストランでいいなら。いつものように、お願いしてもらえますか」
そう俺が言うと、母は、ぱあっと顔をほころばせた。
「まあ、嬉しいわ。わかってますよ。アルコールは入れないことね。シェフの真下さんに言ってあげるから大丈夫よ。もう慣れっこだもの。それにしても、どうして大人になってからアルコールへのアレルギーが出たりするようになったのかしらね。一度精密検査を」
「母さん。とりあえず、見合いの席には出ます。それでいいでしょう」
はいはい、と母は、受け流し、何を着ていこうかしら、ともうお見合い当日のことを考えている。
ふう、と俺は息を吐いた。結婚なんて考える余裕は、今はない。それでも、彼女の名前が出てこなくなる、というのは、精神衛生上願ってもいないことだった。
本好きのお嬢様か…何かうまい理由を考えて、おつきあいは断らないとな。
見合い当日。
俺は、両親と共にホテル北都のレストランへ出向いた。先方は、もうすでに来ていて花園製菓の木内社長が、立ち上がって出迎えてくれる。
父が、これが息子の恭一です、と紹介し、俺もソツのない挨拶を試みた。社長婦人は、巻き髪の美しい人で、年配だろうに、随分と華やかな印象だった。そして、真向かいの俺の見合い相手を見る。
肩にかかるくらいの髪の毛。控えめで上品なピンクのセットアップを着ている。なかなか可愛らしい顔立ちだ。本好きでガチガチのオタクタイプかも、と想像していたのは無駄だった。が。問題は、顔付きだ。さっきから、俺の顔をガン見している。表情は、当惑というか、困った顔というか…。
俺は何か、彼女の気に障ることをしてしまったのだろうか?どうしたもんだろう、と気を揉んでいると、向こうから口火を切ってくれた。
「あの…不躾かもしれませんが…槙田主任…です、よね」
槙田主任?その語感は久しぶりに聞くな、と感じていると、見合い相手のお嬢様は、自己紹介を始めた。なんと、ハルカ書店の飯田橋商店会店に店長のピンチヒッターで行った時、店に勤めていた木内さんだった。
これには驚いた。働き者の新入社員で、店長から聞かされた通り、打てば響く感じで、しごきがいのある女子だった。その木内さんが、花園製菓のお嬢様だったとは。
だんだん、思い出してきた。店長が言っていた。大学生の時始めたバイトから正社員になったたたき上げの子なんだ、と。仕事ぶりを見ていて書店の仕事が好きなのは、よくわかったが、まさか花園製菓のお嬢様枠を飛び出してきていたとは。
なんだかその勇猛果敢さにすっかり俺は気をよくして、レストランで木内さんと打解けて喋ってしまった。女性と、こんなに和やかに話せたのは久しぶりだった。破談になった彼女との話が消えてから、どうにもホテル北都社長婦人枠を夢見て俺に近づいてくる女性が多すぎた。すっかり結婚に対する夢も失いかけてきたところだ。
そこまで考えて、ふと思い出した。そうだ、木内さんも結婚願望はなかったはずだ。寿退社の社員を見て、『私は、結婚よりもずっと書店で働きたいですが』と言ったのを覚えている。その話をすると、木内さんは曖昧な返事をした。自分でも忘れていたようだ。しかし、その表情から察するに、木内さんは今も結婚願望がないのが伝わってきた。
俺は言った。
「だから、まあ、俺も君も気持は同じなんじゃないかな。親にせっつかれて、仕方なく見合いの席に来た、そうだろう。今時、写真も見せてもらえない見合いなんて、おかしいよな。戦争中じゃあるまいし」
実を言うと、少しだけ格好つけた。木内さんと会うのはこれで最後になるだろう。それを考えると、話のわかる主任として、木内さんの記憶に残りたかった。
そうして話していると、木内さんは、改めて言った。
「あの、いろいろすみません。私の方こそ、謝らなくてはいけないくらいです。覚悟も決まってないのに、お見合いの席に来たりして。主任の貴重な時間をいただいて申し訳なく思っています。あの、これお詫びの品と言ってはなんですが、よかったら、どうぞ」
自分にも落ち度があった、と謙虚に謝る姿勢に好感が持てた。今日でお別れなのは、少し残念な気がする。そんなことを思っていたからだろうか、木内さんがくれたプレゼントのお菓子を、その場で食べてみたくなった。甘いものは嫌いじゃない。
出されたお菓子を美味しい、と言って食べてみせると、申し訳なさそうな顔をしている木内さんの顔が明るくなるんじゃないか。それが見たくて、さっと焼き菓子を口にした。
ひと口味わった瞬間に、俺は大きな間違いを犯したことに気づいた。
しまった!手作りお菓子だって酒を使うんだ…!!
「それは違う」
きりっとした真剣な眼差しで恭一は言った。
「そういうことじゃない。…みちるさん、今日のこの店のコース料理のために、俺が何度確認の電話を入れたかわかるかい」
「は?」
「四回は入れた。料理にアルコールを使わないように、と念には念を押して四回だ」
あ、とみちるは合点がいった。
「主任が心配しているのは…つまり、『アレ』のことなんですね?」
恭一は、こっくりと頷いた。
「ウェルカムスイーツの企画は、以前からあったんだ。ただ、俺の『アレ』があると、同僚や部下との長旅は非常に危険だ。いつアルコールを口にして、『アレ』が起こるかわからない。しかも、お菓子の試食の旅だ。試食したお菓子にアルコールが入っていたら」
「それは、かなり…ヤバイですね」
ごくりと息をのんだ。どんな世界にも善良ではない人というのがいるものだ。恭一のミニサイズ化を面白がって、動画に撮り、ネットに流す輩がいないとは言い切れない。いや、いる可能性の方が大きいだろう。
「主任、じゃあ、旅での私の役目というのは、ひょっとして」
「うん。俺がアルコールを口にして、小さくなったら、間髪居れずに俺の頭をはたき、普通サイズに戻してほしい。瞬間的なことだから、元に戻す係さえいれば、なんとか切り抜けられると思うんだ」
「でも…だいぶ危険ですよ。うまくいくかどうか…」
みちるは心配を露わにした声を出さずにはいられなかった。
「ホテル北都と他所のホテルとの差別化を計りたい。どうしてもやりたい企画なんだ。そのためには、みちるさんの手助けが必要だ。それに君だってお菓子は好きなようだし」
「まあ…お菓子屋の娘、ですから」
父の洋二郎は、お菓子に関して研究熱心だった。話題となったお菓子をいち早く入手し、食べては分析していた。そのせいで、いつも木内家にはお菓子があふれていて、みちるの舌も肥えた。
自分でお菓子作りにはまったこともあったけれど、有名店のお菓子には到底勝てず、お菓子作りは趣味程度にとどめた。自然と子供の頃の夢はお菓子屋さんから本屋さんになった。解雇になってしまったけれど。
つい数日前まで、職を探して履歴書を書きまくっていた。不採用ばかりで、好き嫌いは言っておられず、気の乗らない事務の仕事にも応募していた。
それを考えたら、本の次に好きなお菓子に携わる仕事ができるのは、願ってもないことなのではないか。親のコネをつかって、花園製菓の洋菓子店にねじこんでもらうのとは、ワケが違う。
お菓子をめぐる旅か…面白そうだな…。
そんな気持ちが、じわりとわいてきた。
「それとも…俺との旅は気詰りだろうか」
「えっ」
恭一が、自信のなさそうな声でそんな事を言うのでびっくりした。いつでも自信にあふれ、てきぱきと仕事をこなしていた恭一とは思えなかった。
私が、思っている以上に、主任、ピンチなのかな…。
恭一の私生活を想像してみる。ありとあらゆる場面で、アルコールの入っていない方を選択しなきゃいけない。それだけでくたびれてしまうだろう。
そんな恭一が、やりたい企画があり、みちるの助けを必要としている。
みちるは、目の前のコーヒーをごくんとひと口飲んだ。
「わかりました。そのお菓子めぐりの旅、お供させてください」
《 恭一SIDE その2 》
「恭一さんも、ちょっと気分転換が必要だと思うのよ」
実家でお茶を飲んでいると、母から出し抜けにそう言われた。またいつもの観劇にお供するパターンか、と思って聞き流していると、母は続けた。
「ほら、花園製菓さんって知ってるでしょう」
「ええ。以前から、父さんがよく一緒にゴルフに行ったりと、仲良くしてもらってるところでしょう」
「そうなの。そこのお嬢さんがね、お仕事を辞めたそうなの」
「はあ」
お嬢様育ちが社会に出て、仕事についていけなかった。よくある話だ。
「結婚願望はない、って言ってたそうなんだけど、まあ無職のうちに、お見合いでもさせようかって」
「はあ」
「その方、本好きでいらっしゃるの。恭一さんも本が好きじゃない。本屋さんになったくらい好きでしょ。ね、恭一さん、そのお嬢さんとお見合いしなさい」
「は?」
「急な話なんで、身上書きや写真はないけど、花園製菓さんの娘さんなら言うことないわ。娘さんが再就職されたら、もうこの話はなくなりそうだし…このタイミング、逃さないほうがいいと思うのよ」
母はにこにこと話した。小柄で控えめに見えるが、ところがどっこい、実は影の権力者なのだ。母がこう、と決めたら、それにさからうのは難しい。
「恭一さんがね、この話に乗ってくれたら、私も、もうあの方のお話しはしないわ」
俺は、飲んでいたお茶をごくりと飲んだ。俺がつっぱねると思っての交換条件。さすが母だ。ぬかりない。俺は湯のみをテーブルに置いて言った。
「お見合いの席は、ホテル北都のレストランでいいなら。いつものように、お願いしてもらえますか」
そう俺が言うと、母は、ぱあっと顔をほころばせた。
「まあ、嬉しいわ。わかってますよ。アルコールは入れないことね。シェフの真下さんに言ってあげるから大丈夫よ。もう慣れっこだもの。それにしても、どうして大人になってからアルコールへのアレルギーが出たりするようになったのかしらね。一度精密検査を」
「母さん。とりあえず、見合いの席には出ます。それでいいでしょう」
はいはい、と母は、受け流し、何を着ていこうかしら、ともうお見合い当日のことを考えている。
ふう、と俺は息を吐いた。結婚なんて考える余裕は、今はない。それでも、彼女の名前が出てこなくなる、というのは、精神衛生上願ってもいないことだった。
本好きのお嬢様か…何かうまい理由を考えて、おつきあいは断らないとな。
見合い当日。
俺は、両親と共にホテル北都のレストランへ出向いた。先方は、もうすでに来ていて花園製菓の木内社長が、立ち上がって出迎えてくれる。
父が、これが息子の恭一です、と紹介し、俺もソツのない挨拶を試みた。社長婦人は、巻き髪の美しい人で、年配だろうに、随分と華やかな印象だった。そして、真向かいの俺の見合い相手を見る。
肩にかかるくらいの髪の毛。控えめで上品なピンクのセットアップを着ている。なかなか可愛らしい顔立ちだ。本好きでガチガチのオタクタイプかも、と想像していたのは無駄だった。が。問題は、顔付きだ。さっきから、俺の顔をガン見している。表情は、当惑というか、困った顔というか…。
俺は何か、彼女の気に障ることをしてしまったのだろうか?どうしたもんだろう、と気を揉んでいると、向こうから口火を切ってくれた。
「あの…不躾かもしれませんが…槙田主任…です、よね」
槙田主任?その語感は久しぶりに聞くな、と感じていると、見合い相手のお嬢様は、自己紹介を始めた。なんと、ハルカ書店の飯田橋商店会店に店長のピンチヒッターで行った時、店に勤めていた木内さんだった。
これには驚いた。働き者の新入社員で、店長から聞かされた通り、打てば響く感じで、しごきがいのある女子だった。その木内さんが、花園製菓のお嬢様だったとは。
だんだん、思い出してきた。店長が言っていた。大学生の時始めたバイトから正社員になったたたき上げの子なんだ、と。仕事ぶりを見ていて書店の仕事が好きなのは、よくわかったが、まさか花園製菓のお嬢様枠を飛び出してきていたとは。
なんだかその勇猛果敢さにすっかり俺は気をよくして、レストランで木内さんと打解けて喋ってしまった。女性と、こんなに和やかに話せたのは久しぶりだった。破談になった彼女との話が消えてから、どうにもホテル北都社長婦人枠を夢見て俺に近づいてくる女性が多すぎた。すっかり結婚に対する夢も失いかけてきたところだ。
そこまで考えて、ふと思い出した。そうだ、木内さんも結婚願望はなかったはずだ。寿退社の社員を見て、『私は、結婚よりもずっと書店で働きたいですが』と言ったのを覚えている。その話をすると、木内さんは曖昧な返事をした。自分でも忘れていたようだ。しかし、その表情から察するに、木内さんは今も結婚願望がないのが伝わってきた。
俺は言った。
「だから、まあ、俺も君も気持は同じなんじゃないかな。親にせっつかれて、仕方なく見合いの席に来た、そうだろう。今時、写真も見せてもらえない見合いなんて、おかしいよな。戦争中じゃあるまいし」
実を言うと、少しだけ格好つけた。木内さんと会うのはこれで最後になるだろう。それを考えると、話のわかる主任として、木内さんの記憶に残りたかった。
そうして話していると、木内さんは、改めて言った。
「あの、いろいろすみません。私の方こそ、謝らなくてはいけないくらいです。覚悟も決まってないのに、お見合いの席に来たりして。主任の貴重な時間をいただいて申し訳なく思っています。あの、これお詫びの品と言ってはなんですが、よかったら、どうぞ」
自分にも落ち度があった、と謙虚に謝る姿勢に好感が持てた。今日でお別れなのは、少し残念な気がする。そんなことを思っていたからだろうか、木内さんがくれたプレゼントのお菓子を、その場で食べてみたくなった。甘いものは嫌いじゃない。
出されたお菓子を美味しい、と言って食べてみせると、申し訳なさそうな顔をしている木内さんの顔が明るくなるんじゃないか。それが見たくて、さっと焼き菓子を口にした。
ひと口味わった瞬間に、俺は大きな間違いを犯したことに気づいた。
しまった!手作りお菓子だって酒を使うんだ…!!



