「すごい…!やっぱり、主任のお話の効き目があったんじゃないですか」
「どうだろうな。そんなに即効性があるとは思わないが、まあ矛先が変わったのはよかったよ。一倉を候補から外したくなかったし」
昨日は、一倉の最中しか食べられなかったけれど、透のおすすめの和菓子はどんな感じだろう。あの最中の出来栄えだと、すごく素敵そうな和菓子の予感がする。思わずにこにこしていると、恭一が咳払いした。
「で、だ」
「は?」
「はぐらかそうったって、そうはいかないぞ。さっきの続きをする」
「つっ…!」
ソファに座るみちるのすぐ近くに恭一がつめてきた。恭一の指先がみちるの頬をなぞり、そして唇にそっと触れる。
「しゅ、主任…わたし、こういうのっ…」
初めてなんです、と言ってしまいたかった。でも、はっきり言うのも気恥ずかしい。
「安心しろ。いきなり抱いたりしない。でも、キスはする」
「!」
みちるは、目を見開いた。
「…嫌か?」
みちるは、逃げ出したい衝動にかられた。でも、ここは逃げるところじゃない!と叫ぶもう一人の自分がいて、ここはふんばりどころだ、と自分を鼓舞した。
「いや、じゃ、ない、です…」
恭一のみちるの頭を抱いた手が動き、顔をあげられた、と感じた瞬間、唇をふさがれた。やわらかい唇の感触を感じる。キスは何度も繰り返され、お互いの吐息が熱くなっていくのがわかる。
みちるは、もういっぱいいっぱいだったが、恭一のキスは終わりそうにない。思わず酸素を求めるように、はっと息をつくとその隙間から恭一の舌が入り込んできた。みちるの舌と恭一の舌が触れ合う。
その瞬間、びりびりと背中から腰へ快感が駆け抜けていった。
やっ…何これ…!
みちるが初めての感覚に溺れる寸前、ふっとキスが終わった。
え?
気がつくと、ぽすん、と背中がソファについた。恭一が支えていた手がなくなったからだ。
??
何が起こったかわからず、みちるが、身体を起こすと、ソファのへりにミニサイズの恭一が、ちょこんと座っていた。みちるは慌てて身をかがめた。
「主任!」
「君…いつの間に酒なんか飲んだんだ」
ぶすっとした顔をして、恭一が言う。
「お酒なんて、飲んでません…あ、でも、さっきパティスリーリリーのシュークリームを」
そこまで言って、はたと思い出した。そのシュークリームを昼間、ひと口食べた時、恭一がミニサイズになったではないか。
「ご、ごめんなさい。まさか、こんな展開になるなんて」
みちるは、自分のしたことが原因なので、申し訳ないと本当に思った。でも。
「そう言いつつ…顔がにやけてるぞ」
そうなのだ。やはり、みちるは、ミニサイズ化した恭一を見ると萌えが止まらなくなるのだ。
「だって、かわいいんですもん!いいじゃないですか、このままでも!だって二人きりだし!」
るんるんした声でみちるが言う。
「…くそ。俺は決めた」
ミニサイズのまま、恭一が声を荒げた。
「何とかして、体質を元に戻す。酒を飲んで君を抱けない人生なんて、冗談じゃない!」
恭一は、強固に決意を固めたようだ。しかし、そう言う恭一が、また可愛くて、みちるはひたすらきゅんきゅんしていたのだった。
翌日。昨日の大雨が嘘のように、空は晴れ上がっていた。電車も問題なく復旧し、みちるは、恭一と共に和菓子の一倉へと向かっていた。
天気はいいけれど、恭一の顔つきは、くもっている。
やりすぎちゃったかな…。
と、みちるは心の中で呟いた。実は、昨日、恭一がミニサイズ化した時に、いつまでもその姿を見ていたくて、みちるはなかなか恭一の頭をはたかなかった。
それできゃあきゃあ、萌えていたら、すっかり恭一がヘソを曲げてしまったのだ。
「主任。今日のお菓子、どんな感じでしょうね。透さんのイチオシ、楽しみですね」
「まあ、見てみないことには、な」
と、憮然とした感じで返してくる。あからさまに俺は機嫌が悪い、と言っている態度だ。
だって…あんなにじっくりあのお姿が見られることって、もうないかも、と思ったんですもん…。
ついつい、みちるは心の中で言い訳したくなる。だって、恭一を否定したわけではないのだ。心の底から可愛いと思っているのだ。陰と陽なら陽。ポジティブな感情である。そんなに機嫌悪くならなくても…、と言いたい。
そんな感じで微妙なムードで一倉に到着し、昨日とは違い、すぐに透が出てきてくれた。みちると恭一は、店内のカフェスペースへ案内された。
透が、抹茶を差し出しながら言った。
「昨日は、お騒がせしてすみませんでした。息子の熱も大したことなくて。それで、早速、親父と真っ向から話し合ったんです。まあ、親父も頑固ですから、いきなり態度が軟化したわけじゃないんですけど。ただ、話していたら誤解があったことがわかって」
「と言うと」
「槙田さんの持ってきてくださった企画がウェルカムドリンクのものだったでしょう。親父は、ウェルカムドリンクは、絶対、コーヒーか紅茶じゃないとダメだと思い込んでたんです」
「ああ、そう言えばそんな事も…」
うちの店は緑茶としか合わせたくない、と言っていたのをみちるも思い出した。
「最近だと抹茶のウェルカムドリンクだってあるんだ、って言ったら、そうなのか、と驚いてました。それで、できればうちの抹茶ケーキと抹茶、この組み合わせで考えてほしいというのが、俺と親父の一致した意見なんです」
そう言って、透は、抹茶ケーキの乗った皿を二人の前に並べた。
「槙田さんから打診を受けた時に、真っ先にこれを扱ってほしいと思ってました。自信作です。どうぞ」
皿の上にはしっとりと抹茶の色をまとったケーキがあった。シンプルな分、品がよく美味しそうだ。
どうぞ、と言われて食べちゃダメなのよ、とみちるは自分に言い聞かせ、恭一がばくっとひと口食べるのを見た。案の定、恭一は25センチになり、すかさずみちるは、恭一の頭をぽんとつついた。
さっと普通サイズになった恭一が言う。
「すみません、お手ふきを落としたみたいで」
はあ、と透は不思議そうな顔をしている。みちるは、安心して自分の分を食べた。透が説明するには、八女茶を使ったため上質な旨みが出て、ホワイトチョコレートをアクセントとして使っている、とのことだった。
「美味しいですね!ホワイトチョコの入り方が、絶妙な感じ」
「そうか。じゃあ、俺の分も食べてくれ」
にっこりして、恭一が言う。みちるは、二個食べねばならないことを忘れていた。事のほか、嬉しそうに言う恭一に、昨日の仕返しをされている、と思った。
「嬉しい。いただきます」
負けずにみちるが微笑んで言う。恭一は透に病でひと口しか食べられなくて、と説明した。透は言った。
「槙田さん、お酒も甘いものもダメなんて、お気の毒ですね」
心から気の毒そうに言われてしまった。
「いえいえ。生まれつきのものですから。それより、ケーキの運搬についてなんですが」
と、恭一は話を切り替え、うまくやり過ごした。
「いい感じにまとまりそうだな」
ご機嫌がなおったのか、嬉しそうに、恭一が言った。帰りの新幹線の中。さすがに、昨日の夜のことがあるので、恭一をミニサイズにするようなことはしなかった。
「抹茶にお菓子…旅館くらしきのおもてなしと一緒ですね」
「うん。ホテル北都は、ファミリー向けでもあるからな。昔の自分みたいに、感動する小学生がいるといい。…なんて、私情をはさみすぎか」
「いいんじゃないですか。大勢に支持されようとするより、まずは自分から。意外と他社との差別化なんて、そういうところから生まれるかもしれませんよ」
「そうだな。企画部の他のメンツとも話しあわないとな」
みちるも頷き、新幹線の座席に改めて座りなおした。
ご機嫌がなおってよかった…。
そうみちるが思ったところで、恭一が改まった声を出した。
「俺の体質のことなんだが」
ミニサイズ化のことだ、とみちるは恭一に向き直った。
「昨日の夜からずっと考えていたんだが…どうして、こんな体質になったか、これまでも文献やネットを漁って調べてみたんだが、手がかりは全く見つからない」
昨日から考えていた。なあんだ、ヘソを曲げていたんじゃなかったんだ、とみちるが小さく安心すると、恭一が言った。
「君はどう思う。何か思いつかないか」
うーん、とみちるは考えをめぐらした。
「体質が変わった、ということは、内側から変わったってことじゃないでしょうか。常務、何か特別なものを食べたり、飲んだりしませんでしたか。初めてミニサイズ化したのって福岡出張から帰って、でしたよね」
「それは、俺も考えた。だが…特に何か変わったものを口にした覚えはない」
「うーん…香りとかはどうです?」
「俺は鼻はいい方だが…それも、覚えがないな」
二人で、いろいろ考えてみたが、結局、決定打に至ることは何も出てこなかった。
翌日。みちるは常務室で、秘書の綾次について仕事をしていた。お菓子めぐりの日以外は、こうやって綾次から簡単なデータ入力の仕事をもらってすることになっている。
綾次は面倒見がよく、みちるも仕事がしやすい。
「ちょっとお茶をいれて休憩しましょうか」
綾次が提案してくれて、みちるは、お茶を二人分、用意した。お茶菓子は、この間、お菓子めぐりの旅で恭一が買った一倉の最中だ。
「美味しいわあ。さすが、人気店は違うわねえ」
「ほんとですねえ」
「それに、やっぱり常務一人で周られるより、二人の方が私も安心だわ。以前、一人で出張なさった時、体調が悪くなったから」
「どうだろうな。そんなに即効性があるとは思わないが、まあ矛先が変わったのはよかったよ。一倉を候補から外したくなかったし」
昨日は、一倉の最中しか食べられなかったけれど、透のおすすめの和菓子はどんな感じだろう。あの最中の出来栄えだと、すごく素敵そうな和菓子の予感がする。思わずにこにこしていると、恭一が咳払いした。
「で、だ」
「は?」
「はぐらかそうったって、そうはいかないぞ。さっきの続きをする」
「つっ…!」
ソファに座るみちるのすぐ近くに恭一がつめてきた。恭一の指先がみちるの頬をなぞり、そして唇にそっと触れる。
「しゅ、主任…わたし、こういうのっ…」
初めてなんです、と言ってしまいたかった。でも、はっきり言うのも気恥ずかしい。
「安心しろ。いきなり抱いたりしない。でも、キスはする」
「!」
みちるは、目を見開いた。
「…嫌か?」
みちるは、逃げ出したい衝動にかられた。でも、ここは逃げるところじゃない!と叫ぶもう一人の自分がいて、ここはふんばりどころだ、と自分を鼓舞した。
「いや、じゃ、ない、です…」
恭一のみちるの頭を抱いた手が動き、顔をあげられた、と感じた瞬間、唇をふさがれた。やわらかい唇の感触を感じる。キスは何度も繰り返され、お互いの吐息が熱くなっていくのがわかる。
みちるは、もういっぱいいっぱいだったが、恭一のキスは終わりそうにない。思わず酸素を求めるように、はっと息をつくとその隙間から恭一の舌が入り込んできた。みちるの舌と恭一の舌が触れ合う。
その瞬間、びりびりと背中から腰へ快感が駆け抜けていった。
やっ…何これ…!
みちるが初めての感覚に溺れる寸前、ふっとキスが終わった。
え?
気がつくと、ぽすん、と背中がソファについた。恭一が支えていた手がなくなったからだ。
??
何が起こったかわからず、みちるが、身体を起こすと、ソファのへりにミニサイズの恭一が、ちょこんと座っていた。みちるは慌てて身をかがめた。
「主任!」
「君…いつの間に酒なんか飲んだんだ」
ぶすっとした顔をして、恭一が言う。
「お酒なんて、飲んでません…あ、でも、さっきパティスリーリリーのシュークリームを」
そこまで言って、はたと思い出した。そのシュークリームを昼間、ひと口食べた時、恭一がミニサイズになったではないか。
「ご、ごめんなさい。まさか、こんな展開になるなんて」
みちるは、自分のしたことが原因なので、申し訳ないと本当に思った。でも。
「そう言いつつ…顔がにやけてるぞ」
そうなのだ。やはり、みちるは、ミニサイズ化した恭一を見ると萌えが止まらなくなるのだ。
「だって、かわいいんですもん!いいじゃないですか、このままでも!だって二人きりだし!」
るんるんした声でみちるが言う。
「…くそ。俺は決めた」
ミニサイズのまま、恭一が声を荒げた。
「何とかして、体質を元に戻す。酒を飲んで君を抱けない人生なんて、冗談じゃない!」
恭一は、強固に決意を固めたようだ。しかし、そう言う恭一が、また可愛くて、みちるはひたすらきゅんきゅんしていたのだった。
翌日。昨日の大雨が嘘のように、空は晴れ上がっていた。電車も問題なく復旧し、みちるは、恭一と共に和菓子の一倉へと向かっていた。
天気はいいけれど、恭一の顔つきは、くもっている。
やりすぎちゃったかな…。
と、みちるは心の中で呟いた。実は、昨日、恭一がミニサイズ化した時に、いつまでもその姿を見ていたくて、みちるはなかなか恭一の頭をはたかなかった。
それできゃあきゃあ、萌えていたら、すっかり恭一がヘソを曲げてしまったのだ。
「主任。今日のお菓子、どんな感じでしょうね。透さんのイチオシ、楽しみですね」
「まあ、見てみないことには、な」
と、憮然とした感じで返してくる。あからさまに俺は機嫌が悪い、と言っている態度だ。
だって…あんなにじっくりあのお姿が見られることって、もうないかも、と思ったんですもん…。
ついつい、みちるは心の中で言い訳したくなる。だって、恭一を否定したわけではないのだ。心の底から可愛いと思っているのだ。陰と陽なら陽。ポジティブな感情である。そんなに機嫌悪くならなくても…、と言いたい。
そんな感じで微妙なムードで一倉に到着し、昨日とは違い、すぐに透が出てきてくれた。みちると恭一は、店内のカフェスペースへ案内された。
透が、抹茶を差し出しながら言った。
「昨日は、お騒がせしてすみませんでした。息子の熱も大したことなくて。それで、早速、親父と真っ向から話し合ったんです。まあ、親父も頑固ですから、いきなり態度が軟化したわけじゃないんですけど。ただ、話していたら誤解があったことがわかって」
「と言うと」
「槙田さんの持ってきてくださった企画がウェルカムドリンクのものだったでしょう。親父は、ウェルカムドリンクは、絶対、コーヒーか紅茶じゃないとダメだと思い込んでたんです」
「ああ、そう言えばそんな事も…」
うちの店は緑茶としか合わせたくない、と言っていたのをみちるも思い出した。
「最近だと抹茶のウェルカムドリンクだってあるんだ、って言ったら、そうなのか、と驚いてました。それで、できればうちの抹茶ケーキと抹茶、この組み合わせで考えてほしいというのが、俺と親父の一致した意見なんです」
そう言って、透は、抹茶ケーキの乗った皿を二人の前に並べた。
「槙田さんから打診を受けた時に、真っ先にこれを扱ってほしいと思ってました。自信作です。どうぞ」
皿の上にはしっとりと抹茶の色をまとったケーキがあった。シンプルな分、品がよく美味しそうだ。
どうぞ、と言われて食べちゃダメなのよ、とみちるは自分に言い聞かせ、恭一がばくっとひと口食べるのを見た。案の定、恭一は25センチになり、すかさずみちるは、恭一の頭をぽんとつついた。
さっと普通サイズになった恭一が言う。
「すみません、お手ふきを落としたみたいで」
はあ、と透は不思議そうな顔をしている。みちるは、安心して自分の分を食べた。透が説明するには、八女茶を使ったため上質な旨みが出て、ホワイトチョコレートをアクセントとして使っている、とのことだった。
「美味しいですね!ホワイトチョコの入り方が、絶妙な感じ」
「そうか。じゃあ、俺の分も食べてくれ」
にっこりして、恭一が言う。みちるは、二個食べねばならないことを忘れていた。事のほか、嬉しそうに言う恭一に、昨日の仕返しをされている、と思った。
「嬉しい。いただきます」
負けずにみちるが微笑んで言う。恭一は透に病でひと口しか食べられなくて、と説明した。透は言った。
「槙田さん、お酒も甘いものもダメなんて、お気の毒ですね」
心から気の毒そうに言われてしまった。
「いえいえ。生まれつきのものですから。それより、ケーキの運搬についてなんですが」
と、恭一は話を切り替え、うまくやり過ごした。
「いい感じにまとまりそうだな」
ご機嫌がなおったのか、嬉しそうに、恭一が言った。帰りの新幹線の中。さすがに、昨日の夜のことがあるので、恭一をミニサイズにするようなことはしなかった。
「抹茶にお菓子…旅館くらしきのおもてなしと一緒ですね」
「うん。ホテル北都は、ファミリー向けでもあるからな。昔の自分みたいに、感動する小学生がいるといい。…なんて、私情をはさみすぎか」
「いいんじゃないですか。大勢に支持されようとするより、まずは自分から。意外と他社との差別化なんて、そういうところから生まれるかもしれませんよ」
「そうだな。企画部の他のメンツとも話しあわないとな」
みちるも頷き、新幹線の座席に改めて座りなおした。
ご機嫌がなおってよかった…。
そうみちるが思ったところで、恭一が改まった声を出した。
「俺の体質のことなんだが」
ミニサイズ化のことだ、とみちるは恭一に向き直った。
「昨日の夜からずっと考えていたんだが…どうして、こんな体質になったか、これまでも文献やネットを漁って調べてみたんだが、手がかりは全く見つからない」
昨日から考えていた。なあんだ、ヘソを曲げていたんじゃなかったんだ、とみちるが小さく安心すると、恭一が言った。
「君はどう思う。何か思いつかないか」
うーん、とみちるは考えをめぐらした。
「体質が変わった、ということは、内側から変わったってことじゃないでしょうか。常務、何か特別なものを食べたり、飲んだりしませんでしたか。初めてミニサイズ化したのって福岡出張から帰って、でしたよね」
「それは、俺も考えた。だが…特に何か変わったものを口にした覚えはない」
「うーん…香りとかはどうです?」
「俺は鼻はいい方だが…それも、覚えがないな」
二人で、いろいろ考えてみたが、結局、決定打に至ることは何も出てこなかった。
翌日。みちるは常務室で、秘書の綾次について仕事をしていた。お菓子めぐりの日以外は、こうやって綾次から簡単なデータ入力の仕事をもらってすることになっている。
綾次は面倒見がよく、みちるも仕事がしやすい。
「ちょっとお茶をいれて休憩しましょうか」
綾次が提案してくれて、みちるは、お茶を二人分、用意した。お茶菓子は、この間、お菓子めぐりの旅で恭一が買った一倉の最中だ。
「美味しいわあ。さすが、人気店は違うわねえ」
「ほんとですねえ」
「それに、やっぱり常務一人で周られるより、二人の方が私も安心だわ。以前、一人で出張なさった時、体調が悪くなったから」



