「どうかしたの?」

「大したことじゃないよ」

「――ほんとうにそうなら、いいね」

「ミコトくん……?」

「なんでもないよ」


 ミコトの反応が気になったものの、それ以上は聞く事ができなかった。まだ紅茶が残ってるからとそのまま別れた帰り道、壮大な風景と出会う。

 「きれい……」


 夜が訪れる前の刹那の空の下咲く向日葵は、神秘的な美しさがあり目が離せない――その時なぜか、ミコトのあの瞳を思い出した。



 朱い月。


 どうして今それを――それ以上の言葉は続かなかった。


 風に飛ばされてきた、アカイリボン。その向こうにいたのは、朱い月の瞳をした少年だったから。


 ああ……そうか。


 あの瞬間(とき)から、もう魅入られてしまっていたんだ。



 故郷が消えていく、私の世界から。


 私が最後に見たのは、やっぱり朱い月だった。