先生が出て行ってから教室は無音になり、
みんな自習をしていた。結局、チャイムがなるまで先生は戻ってこなかった。

休み時間に、
「あの、ありが」
「勘違いしないで」
お礼を言おうとしたら遮られた。
「人の頑張りを認めないでカンニングだとかほざいている先生が気に入らなかっただけ
だから」
そっぽを向いて淡々と彼は話す
「それでも、ありがとう」
微笑んで言うと照れたのは頬を掻いた。

「今日の放課後、家に来るか?」
(今日はレッスンがあったな)
「ごめん、今日は予定があって。また今度でいいかな?」
「ん、わかった。それじゃまた今度誘うよ」
「ありがとう」
放課後になり、レッスン場へ行こうとすると
「中原、ちょっといいか」
クラスメイトに話しかけられた。

階段で背中を押した子だ。
(えーと、駄目だ。名前出てこない)
「なに?」
周りを見渡し
「辺里はいないな。ちょっとついてきて」 
(嫌な予感しかしないな)
「ごめん、これから用事が」
「すぐに終わるから」
と聞いてもらえなかった。
ついていく間に舞たちに遅れるとメールを
送り階段の踊り場についた。

「それで、なんの用?」
「あのさ、今でも女みたいな小物とか
 持ってるの?」
彼は真顔でそう聞いてきた。
「持ってるけど、どうして」
そういうと彼は見下したような顔で
「気持ち悪いな、お前」
「え?」
「え?じゃねぇよ。気持ち悪いって言ってんの。女みたいに髪を伸ばして女みたいな小物を持って、恥ずかしくないの」
「なにが?なにが恥ずかしいの?
僕は僕のしたいことをしてるだけ、
着たい服を着てるだけ」
「親は、親は俺を認めてるのか。」
「っ、両親は僕の個性がわからなくて諦めて僕を祖父母のところに預けたんだ。今は諸事情で寮に住んでるけど祖父母も寮の仲間も僕の個性を認めてくれている。だから僕は自分の好きを貫けるんだ」
胸を張って自分の答えを言いきった数秒後
彼は呟いた。

「羨ましい」
「え」
「気を悪くしたらごめん、
認めてくれる人がいて、自分の好きをできている中原が羨ましい」
「羨ましい?僕が?」
彼は一呼吸して
「俺の家は面倒なしきたりが多くてね。
その一つが跡継ぎ問題。
家は男が継ぐものっていう昔の価値観で親も祖父母も親戚もみんな口を揃えて言うんだ。でも最悪なことに俺は一人っ子で
男児を産めなかった母さんはすごく責められて精神が壊れちゃって親戚たちと同じ価値観に染まっていった。」
(・・・ん?)

「髪も短くされて女子の制服なんて
言語道断。身なりだけでも男にさせようと
母さんは必死で。でも生物学的には変えられなくて。」
「もしかして」
「ごめんね、俺、女の子なんだ」