杏奈さんの言葉に驚きを隠せなかった、
「え、私たちが雪希のこと男の子だってわかってなかったって思ってたの?」
「え、はい」
「選考書類の情報は私たちにも回ってくるんだ」
話に入ってきたのは杏子さん。

「そうなん、ですか。あの、どうして僕が選ばれたんでしょうか。他にも歌やダンスの上手い人はいました。やっぱり面白そうとか、
そういう類の理由ですか?」
「そう思われてたなら心外だな」
眉を下げて言ったのは杏子さんだ

「上があなたを選んだのは芯の強さ。
好きなものを堂々と好きだって言える人って結構少ないんだよ。それに何をするにしても根本には好きだって気持ちがないといけない。好きだから上を目指す気持ちになる、
好きだから諦めない、私も杏奈も好きだからここにいる。」
好き、か。好きって結構色々な原動力に
なってるのかな。

「自分の好きな格好を、自分を貫き通すって並大抵じゃできないと思う。でも雪希は、
それができている、芯の強さを感じた。
だから選んだの。」
にっこりと言う杏子さんとは対に暗くなる。

「僕は、皆さんが思っているほどできた人間じゃないですよ。
自暴自棄で髪を切って何もかもどうでも良くなって自分が何が好きなのかもわからなくなって」
「ストップ、雪希」
そこまで言って杏子さんに止められた。

「心が折れない人なんていないよ、
折れない=芯が強いってことじゃない。
折れても折れても何度でも立ち上がる、
そういうことが芯が強いってことだと思う
雪希は何度でも自分の好きを貫ける。
私たちはそう確信してる。」
「杏子さん、杏奈さん、ありがとうございます。ところで」 
杏奈さんと杏子さんの言葉に胸を打たれたが
気になることが
「あの3人は何をしてるんです?」

レッスン場の隅で教科書やノート、問題集を広げている3人を指さす。
「蓮?」
杏奈さんが声をかけると
「えっと、うるさくしたら悪いかなって思って中間試験の勉強を
しようという話に。類、舞、そろそろ片付けるか」
蓮が顔を上げ答えたら3人とも教科書類を
片付け始める。
(もうすぐ、中間試験か)

レッスンは久しぶりに歌の方が中心だった。
今回は新曲だ。音源は結構前から、もらっていて練習をしていたが
舞は歌が得意ではないからよく音を外す。
その度に音楽を止めるので舞はかなり
凹んでた。

レッスンが終わっても舞はもう少しやると
言うので付き合うことに。
「いいの?付き合ってもらっちゃって、」
控えめに言う舞に
「いいんだよ、客観的に見ないとどうなっているかわからないだろ?」
蓮はそう言いながらCDプレーヤーの
スイッチを押す。
「あ、ごめん」
「もう一回」
引っかかる度にそう言い繰り返す。

時間はあっという間に過ぎ
「舞、そろそろ時間が」
控えめに言う類に
「わかってる、お願い、もう一回だけ」
舞の息はもう随分前に上がっている。
それでも舞はやめようとしない。

仲間が頑張っているのに僕らが引っ張らなくてどうする。
気合を入れて挑んだ最後。