着替えて部屋を出ると類がいた。
「おはよう、舞」
「おはよう、類くん。あのさ」
ーオレンジ髪の男の子の知り合い、いる?ー

「なに?」
「っ、ううん、なんでもない。ごめんね」
「そう?」
聞きたいのに本能がそれを拒んでいる。
いや、ただの言い訳だ。
本当は怖いんだ、事実を知ることが。
(なんでこんなに弱いんだろう)

翌日
「おはよう、舞」
「おはよう、紗南」
紗南がいつもの席に座っている。
「ねぇ、さっき聞こえたんだけど2年の
先輩、なにかあったの?えっと、確か、
蓮先輩?」
紗南は一瞬、目を逸らした。

「さぁ、先輩でしょ?どうだろう、
私はわからないな」
紗南は苦笑した。
「紗南、嘘つかないでよ」
本当はかなり前から紗南が嘘をついてたのは知ってた。ずっと後一歩が踏み出せなくてはぐらかしてた。
でも、もう逃げたくない

舞が記憶喪失だって知ったのはあの事故からそう日が経たない時
学校でも普通で、でもどこか浮かない顔を
していて気になったから
舞が通っているレッスン場で待ち伏せした。

「あの、蒼葉さん」
「えっと、あなたは?」
出てきたところをすぐに引き留めた。
彼はすごく驚いて、それと同時に警戒しているような顔をした。
まぁ無理もないか

「舞の友達の西宮紗南です。」
舞の名前を出した瞬間、類さんの表情は
ほんの少し柔らかくなったように見えた。
「ここじゃあれだし移動しようか」
私たちは近くのファミレスに移動した。

そこで類さんに舞が記憶を無くしたことを
聞いた。
類さんたちのこと、Rainbow Roseのこと
自分がアイドルをやっていることすら忘れてしまったことを聞いた。
なにかあった時のためにメアドを交換して
解散となった。

記憶喪失って記憶全てを無くすのかと思ってたから、私のことをわかっていた時は
半信半疑だった。

でも数日して、
「Rainbow Roseってアイドル知ってる?
2人で活動してるんだけど、元々は4人組
だったらしいよ」
「え、」
他人事のように言う舞を見てわかった。
彼らになにがあったのかはわからない。
でも、舞が苦しむのは見たくない。
「珍しいね、舞がアイドルに興味  
もつなんて」
私は知らないふりを続けていた。

が、ついに舞が切り出した
「紗南、嘘つかないでよ」
どうすればいい?思い出させていいのかな?
でも私が言っても思い出さないかもしれない
疑問を持つかもしれない、
なにが引き金になるかわからない。
「舞、はさ、記憶を、取り戻したいの?」
思考放棄して相手に委ねるなんて最低だな

「私、どこか記憶を無くしているの?」
「あ、」
しまった、舞は記憶を無くしたと
思ってないんだ。
思い出したくない記憶ならいっそのこと、
いや、でも!
「紗南?」
「え、」

「思い詰めた顔してるから。
ごめん、私が変なこと聞いたからだよね」
舞は悲しい顔で笑顔では答えた。
「舞はさ、無くした記憶があったとして、
取り戻したい?」

「私はこれが正常だと思ってる、
でも思い当たる節がいくつかあって。
記憶をなくしたってことは、私にとって思い出したくないことだと思う。
でも忘れたままでいたくない。辛いことでも苦しいことでも私が経験したことだから」
その目に迷いはなかった。
「わかった、私が知ってる限り全部話すね」