レッスンと学校の往復を繰り返す日々を
続けていたある日。
「ん?」

下駄箱に二つ折りされた紙が入っている。
上履きに履き替え、紙を見ると
放課後、体育館裏に来てください
とだけ書いてあった。
「へぇ、物好きもいるもんだな」
「れ、蓮」
頭を肘置きにして、覗き込む。

「ちょっとやめて、身長縮んだら
どうしてくれんの」
「え、そっち?行くのか、」
「そりゃ、呼び出されたからには行かないとちょうどレッスンなかったし」
「ふーん」
蓮は体を退け、
「気をつけろよ」
手をひらひらさせて歩いていった。
背中が見えなくなって気づいた。
「なにに」

なんだかんだ気にしつつ
あっという間に放課後。
そして、体育館裏へ。
「来てくれてよかった」
振り返ると同じクラスの
「戸田(とだ)くん?」

クラスメイトの戸田くん、図書委員で
いつも本を読んでいる、物静かな男の子
「ごめんね、呼び出して」
「いや、それはいいけど、どうしたの?」
「あのさ、舞さんってアイドルに
興味ある?」
「興味あるっていうか、私、アイドルなんだ、みんなにはまた秘密だよ」
「アイドルってRainbow Rose?」
「うん、よく気づいたね。」
戸田くんが息を呑んだのが分かった。

「それで、どうしたの戸田くん」
「あ、えっと僕、この前サマーフェス見に行ったんだ。それで、ステージで輝いている
みんなを見て、ファンになっちゃったんだ。だから、これからも、応援するから。舞さんは最推しだから」
どこか焦っているみたい。

「そっか、ありがとう、ファンになってくれて。私個人の最推し1人目だね、戸田くん」
「あ、うん。話はこれだけなんだ、
呼び出してごめん。」
「そうなんだ、あ、ごめん。これから用事があって。また明日。」
「うん、また明日」
戸田くんはとびきりの笑顔て
私を見送る。

「よくあんなでまかせがすらすら
出たもんだな、俺」
舞さんが去ったのを確認して呟く。
本当は舞さんに告白するつもりだった。

でもテレビで何気に見ていた番組でRainbow Roseを知った。でも興味がなくてすぐに
チャンネルを変えた。そして今日、
外れて欲しいと願いながらRainbow Rose
かを聞いた。
そしたら当たってしまった。

咄嗟にファンだと言った。応援するからと、
最推しだと嘘を吐いた。俺は違和感なく
言えたかな。流れる涙を袖で雑に拭う。
(これからはファンとして適切な
距離で接さないと)
「好きだよ、今までとは形は違うけど
これからも舞さんが好きだよ」

「ただいま」
「おかえり、舞」
寮に帰るともう蓮は帰っていた。
「で、どーだったんだ」
「え?」
「え?じゃなくて、呼び出し」
「あ、えっと彼、手紙くれた子、
私のファンなんだって、応援してるからって言ってくれて。私が最推しなんだって。
こういうのって直接言われると
やっぱり嬉しいな」
「そうか」
蓮はそれだけ言った。どこかテンションが
低くみえる。
「着替えてきたら?」
「あ、そうだね。じゃあ着替えてくる」

舞が階段を登っていく。
「舞は気づいてないんだな」
「え、なんか言った?」
聞こえてたのか
「なんでもない」
舞は再び階段を登る。

今度こそいなくなったのを確認してため
息をつく
多分、舞に告白するつもりだったんだな。
でも舞がアイドルだって知って、
咄嗟にああ言ったんだと思う。
困らせないために、傷がつかないように。

(どんな気持ちだったんだろう。告白しようとした相手がアイドルだって知って、
自分の気持ちとは裏腹の言葉を伝えるのは。きっとつらいんだろうな、
苦しいんだろうな。
俺だったら、焦って下手に切り上げて
不信感しか与えられないだろうな)

想像することしか出来ないけど、
せめて彼がどこかで報われますように