「そ、それで?」
「聞いたんだ、颯太さんとお父さんたちに何があったのか。知ってたの?このこと。類のことも
わかってた?」
翔は何も答えない。

「知ってた、というかそうじゃないかって思ってた。」
「そう、なんだ。ごめん翔。」
「なんで謝るの?」
「私が類の話をしたりした時、翔は
気が気じゃなかったのかなって」

翔は長いため息をついて吐き出した。
(長いため息は自分の考えをまとめるためだろうな)
「本音を言えばそうだけど、
それでもずっと墓まで持っていくつもりだった」
「・・・私の、ため?」
「それもあるけど、いやほとんどそうだけど、俺自身が言いたくなかったんだ。舞と類くんだけじゃない、
Rainbow Roadsの雰囲気を俺のせいで
悪くしたくなかったんだ」
「知ってもそんなことはない、と
思う」

(はっきり言える自信がない)
「まぁ、どうなのか実際に起こらないとわからないからね。
仮に俺じゃないルートで知ったとして、今まで通りリーダーとして、ただの蒼葉類として接することができるか?」
(類を、)

「・・・絶対できる、
とはいえないかな。
類は関係ないってわかってても、
気まずくなっちゃいそう。」

「でも、こう言ったら悪いけど類くんが知らなかったのは救いかな。」
「うん、」

「おーい、翔。そろそろ」
「わかった」
向こうから聞こえたのは拓也さんの声。

「それじゃいってくるよ」
「うん、いってらっしゃい」
電話を切ってスマホをベットに投げる。

目を閉じると思い出が蘇る。

ハロウィンライブ、サマフェス、テスト期間、
お正月などなど。そして
ー蒼葉類ですー
自己紹介。

(そういえば自己紹介した時、私の苗字を呟いてたような。)
ー日比谷ー
(まさか!
そうだ、その後翔のこと聞いて)

動悸がする。

ー類くんが知らなかったのは救いかなー
(違うよ、翔。類は全部知ってたんだ。
今の今まで類はずっと苦しんでた。
・・・1人で?)
疑問が浮かんで動悸はぴたりと止んだ。

(類は誰かに言っていたのかな。
私だったらこんなことずっと抱える
なんて無理だ。
だとしたら誰に?
パッと思い浮かぶのは雪希か蓮。
勝手な想像だけど大人には相談
しなさそう。
だとしたらやっぱり蓮?
類はこういうことは雪希より蓮に
相談しそう。
蓮が帰ってきたら聞いてみよう)

3日後。
(早ければ今日だって言ってた。)
落ち着かなくて玄関とソファを行ったり来たり。

聞き間違えることのない足音、玄関の鍵が開いた音で早足になる。
「おか、」

勢いが止まらなくて蓮とぶつかる。
反射なのかボストンバックを落として、
抱き止めた。
「た、ただいま。どうしたの?舞」
「蓮に聞きたいことがあるの。」
驚いていた蓮はなにかを察したのか真剣になった。

「わかった。荷物置いてくるからちょっとまってて」
とりあえず蓮から離れて、1分もしないで
荷物を置いて戻ってきた。

予想通り類は蓮に話していた。
「いつ聞いたの?」
「五月ごろ。類からじゃなくて俺が無理やり聞き出した。」
「そっか。」
(私だけ、知らなかったんだ。
類は私がいて本当に笑えてたのかな。
ごめん、類。私が)

自分の頬を叩く。
「え、いきなりなに」
(だめ、あの時と同じになっちゃう。
類も翔もある意味守ってくれてたんだ。)
「なんでもない」