翌日、それぞれ衣装を決めて
千鶴さんに渡した。

仕事と学業を両立する日々が続いた。
ハロウィンライブやバラエティ番組での
運動会、他にもやったことはあったけど正直
「疲れた、」

この他にも個別の仕事はあった。
中間テストも気がついたら終わって
いたという感じ。
(もちろん1位だけど)

俺たちはこの時期が一番忙しい。
ハロウィン、クリスマス、カウントダウン、お正月、バレンタイン。

まだまだ忙しい日が続く。
他の3人も目に見えて沈んでいる。

楓さんとの文通も止まっている。
向こうは3年生だから仕方ない。
(次はクリスマスか、)

数週間後
「なぁ、蒼葉。
クリスマスイブの日にみんなで遊ぶんだけど、どうかな?」
「来年になったらそれどころじゃないし、今のうちにクラスの思い出作ろう
かなって」
クラスメイトが話しかける。

「ごめん、イブも予定が」
(遊ぶのか、いいな。)
「そっか、ごめんな、それだけなんだ」
「あ、うん」

クラスメイトは離れて行った。
「言っただろ?聞いても無駄だって」
「だって、一応、誘わないと。
後で誘われなかったって愚痴を
ネットで呟かれても困るし」

こっちをチラッと見て笑っている。
(俺はそんな陰湿なことしないけど)

翌日は終業式で半日で終わった。 
明日はクリスマスライブ。
それまで衣装の調整、振り付けの確認、
当日の流れを何度も確認して
万全に準備をした。


最後の確認も終わって帰宅途中。  
信号の待ち時間
ぼんやりとした頭で考えていた。

(みんなは寄るところがあるみたいだし
先に帰って仮眠しよう。
最高のライブをみんなで作るんだ)

疲れていた。頭ではわかってたのに
動かなかった。
トラックが突っ込んできていても。

衝撃の後に浮遊感。
すぐに地面に叩きつけられ鈍痛が
主張をしてくる。

(衝撃ってもっと痛いって思ってたけど
そうじゃないんだ)
疲れているせいか冷静だった。

(トラック事故を起こした人の子供が
トラックに轢かれるなんて
滑稽だよな)

腹部がジワジワと温かく感じる。
(これじゃ明日のライブはダメだな。
たくさん練習してファンに喜んでもらいたくてやってたのにダメじゃん)

痛みも暖かさもだんだん感じることが
なくなって寒くなってくる。
五感が薄れていく。
(人が死ぬ瞬間ってこんな感じなのかな)

(今まで積み上げたものをぶち壊して
ごめん。最低なリーダーでごめん。
こんな俺でもついてきてくれて
ありがとう)

「類くん!!」
(最後に楓さんに会いたかったな)



「じゃあねー、楓!
また新学期!」
「またね」
友達と別れて横断歩道で待っている時、
向かいに類くんを見つけた。

(どうしよう、類くん、気づくかな)
ほんの少しの期待でワクワクしていた。
(声、かけようかな。でも迷惑かも)

迷った次の瞬間。
トラックが向かいの歩行者信号の電柱に
突っ込んだ。猛スピードで。

ほんの一瞬で類くんの体が
数メートル先に倒れた。

叫ぶ人、類くんに駆け寄り呼びかける人
トラックを確認する人、救急車を呼ぶ人
みんな動いていたのに動けなかった。

何も聞こえないあの瞬間が、血飛沫が、
落ちた音が何度もフラッシュバックして
吐き気すら催してくる。

しゃがんで背中を丸めて何度も呼吸を
意識して落ち着かせる。

少しずつ近づいていくと、腹部から出血しているのが分かった。

助からないと思ってしまった。
無意識に叫んでいた。
「類くん!!」

どうやって帰ったか覚えてない。
そして、翌日のニュースで類くんが
亡くなったことを知った。