この言葉で空気が重苦しいものに
変わる。
(あの時と何も変わらないな)

「ソロだから、仲間がいないから
知らないだけだよ。
置いていかれる怖さを。
スタートは同じでも確実に開く差が
あるって。

同じステージに立っているのに
自分だけ場違いじゃないかって焦り、
もっと他に適任が現れるかもしれないって不安。
1人だから感じたことないでしょ?」

「おい、」
「!」
胸ぐらを掴まれて引き上げられる。
「「SHOH!」」

「本当のこと言っただけじゃん。
なにキレてるの?」
「1人の怖さを知らないくせに」
SHOHの目は血走っている。

「何度もオーディションに落ちて、
やっとデビューできた俺の気持ちを
知らないで。
Rainbow Roseでリーダーだったからって調子乗ってんの?」
「先に食ってかかったくせに。
1人だから、仲間に気を遣わなくて
気楽でしょ」

「SHOH、いい加減にしなよ。
まだ始まってもないのに」
「そうだよ。類も
落ち着きなよ。休憩だって
そろそろ終わりだし」

健と満が割って入る。
ずっと中途半端な体制だったから
手を離されて、バランスを崩す。
すぐに立って、服を直す。

「蓮、だっけ?
問題起こしたの」
SHOHの言葉にピクリと反応する。

「SHOH、」
満が嗜めるが止まらない。
「そいつのせいでせっかく受かった
ものを白紙にされて、ほんと、
かわいそう」

掴みかかりそうになった。
(耐えろ、耐えろ、
同じになる)
「上辺しか知らない外野のくせに」
必死に耐えた代わりにドスの聞いた
声が出た。
雪希と喧嘩した時よりも格段に低い。

その後の雰囲気は最悪だった。
俺とSHOHはギスギスして
健と満はソワソワしていた。

休憩終了直前。
「こいつらが佐々木さんの選んだ
メンバーか」
聞き覚えのある声にハッとする。

(陸さん!)
面白いものを見るように目を輝かせて
1人1人じっくり観察している。
目が合ったような気がして慌てて逸らす

練習をじっくり観察している間
ずっと陸さんは眉間に皺が寄っていた。
「ちょっといいか」

「類、」
曲が終わるのを見計らってから
手招きされた。
「3人は続けてて」

ー廊下ー
「あの、なんで陸さんがここに」
「佐々木さんと俺は、腐れ縁でさ。
昨夜佐々木さんから新しい
チームが生まれたから見にこないかって言われて」
「そうですか」

「類、」
「はい」
「類はこっちにくるつもりか?」
「・・・いえ、
答えを練習後に聞かせて欲しいと
佐々木さんから言われて。」
「またあの人は断れない条件を出して」
ため息を吐く陸さん。

(前にも似たようなことあったのかな)
「でもはっきり断る理由がわからないんです」
「断る理由か、・・・
理由なんていらないと思うけど。
でも、類。俺の生きてきた中で、
後悔のない道なんてなかったよ」
「え、」

(てっきり怒られるかと思った。
舞が断言してすぐに、俺はここにいて
申し訳なく思わないのか、とか
もう戻る資格はないとか。

・・・いや、俺がそう願っただけだな。
もっと責めてほしくて。
責めて、責めて許される気でいた)

俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「どの道でもそうだよ。
なんでこっちを選んだんだろう、
向こうに行けば良かったのかなって。

少なからず後悔して、選ばなかった方に期待する。

STEPに入った頃は後悔ばかりだよ。
家から逃げたい、そんな理由で全く
知らない世界に飛び込んで。

まぁ、俺の過去の話は置いといて。類、
とりあえず大事なのは輝けるか、だ」