「どういうことですか?」
「あ、ごめんなさいね。
私、ヒカルプロダクションの
佐々木といいます。」

慣れた手つきで渡された名刺。
(え、ヒカルプロダクションって)

こういう業界に疎い俺でも知ってる、
大手芸能人事務所だ。

売れない芸能人はいない、
巷ではそう豪語されているほど
ヒカルプロダクションには
成功を納めたアイドルや俳優が
たくさんいる。

オーディションも一次審査でほとんどが落ちる。
最終審査で合格が0も珍しくない。
ましてやスカウトなんて。
そこで俺はハッとする。

「あ、あの、」
言葉に詰まる俺に佐々木さんは言った。
「きみの他に3人声を掛けているの。
みんな別々の事務所に所属していて。
チームだったり、個人だったり」

「えっと、それは・・・」
(分かってるくせに)

「率直に言って君を引き抜きたい。
君はRainbow Roseの中で特に
輝いていた。
でも同じくらい輝きをもった人たちの中だともっと輝ける。」
思考がぐるぐるして上手くまとまらない

「でも、俺は、リーダー、で」
「リーダーだという負目があるの?
他の人に任せられるでしょ。
蓮くんとか」
絞り出した声にあっさり返されて。

「今すぐに決めなくていい。
来週、顔合わせと体験をするの。
そこで、答えを聞かせてちょうだい。」
「・・・はい」

佐々木さんはカツカツとヒールを
鳴らして通り過ぎていく。

(なんですぐに答えが
出せなかったんだろう)

ー蓮がリーダーだったら良かったのにー
こんな時間差でかえってこないでよ。

顔合わせの前にあった中間テスト。
引き抜きのことが気がかりで集中
できない。

学年1位は舞、2位は麻倉で
俺は3位。

麻倉にも舞にも心配されたが
正直、俺はそれどころじゃなかった。

「シャイニングの健(たける)です。」
「jokerの満(みちる)です」
「SHOHです。
ずっと1人だったから嬉しいな」
「Rainbow Roseの類です」

レッスンについて一言だけ。
すごくキツかった。
休憩はみんな、肩で息してるような
感じで。

雪希よりも歌が上手いSHOH、
舞より体が柔らかい満、
蓮よりダンスにキレがある健。

明らかな自分との差に、
なんで引き抜かれたのか疑問になる。

結局、みんなには伝えずにここにいる。
「ねぇ、みんなチームだったんだよね。どんな感じに言って来たの?」

SHOHの言葉に、健は
「そのまんま。
ヒカルプロダクションから
誘われたって言ったら
頑張れって。
表面上だけ仲良くしてた感じだから
そっけなかったよ。」

満は
「簡単に寝返るんだなって
吐き捨てられた。
自分だけ引き抜かれていい気に
なってるんだろって。
俺は最低だよ。
結成してすぐに生まれた目標を
達することなく抜けるんだから。
でも、もう戻れない。」

「類は?」
健の俺に向ける目を逸らした。
「・・・言って、ない。」

「「「はぁ!?」」」
「言えなかった。
時間がなかったってわけじゃない。
はっきり断るって言えなくて、
裏切り者って思われるのが怖くて」
(ここにいる時点でもう裏切り者か)

「類ってさ、恵まれてるよね」
「え、」
SHOHは機嫌が悪くて怒っている
「怖いってことは信頼してるってこと
でしょ?支えてくれる、信頼できる
仲間がいるくせに。
これ以上何を求めてるの?
恵まれていることに気づきなよ」

SHOHはずっと1人で、
仲間がいることに憧れてるのかも
しれない。でも、それは全ていい関係とは言えない。

健みたいに仲は悪くないけど
良くないって訳じゃないけど
満みたいに亀裂が入らないとも言えない

「言葉を返すけど、SHOHだって
恵まれてるでしょ?」