お互いの予定が合わず最終日になって
しまった。掃除をして花を挿し
お線香をあげて帰り支度をする。
「ねぇ、翔」
「ん?」
「お母さんの日記を見て、
思い出したんだ。」
翔は目を見張った。

「場所変えようか。
他にも来る人はいるだろうし」
遮られて、墓地の向かいにある大樹に
移動して下にあるベンチに座る。

時折吹く風も熱をもっているように
少し熱い。
「この場所で暗い話をするのも
どうなんだって思うけど聞いて」
「うん」
「なんで霊安室で翔が泣けて
私が泣けなかったのか」

「私、実感がなかった。お父さん達が
死んだ実感が。それと、こんなこと
言ったら不謹慎だけど、
・・・安心、したんだ」
「安心?」
「うん。叔母さんの言葉を完全に
否定することができなかった。
だから、・・・これ以上、疑いながら、
生きなくていいんだって・・・
思った」

親を疑うなんて。最低。
こんな言葉が返ってくると思っていた。
自分自身にもそう思うから。

「元凶がいなくなったからって
心の傷が癒えるなんてことないよね。
当たり前のことに気づけなくてごめん」

責めるでもない、罵るでもない、
むしろ優しい声だった。
「翔、」

「時間は戻らないし、
過去は変わらない。でも思い出まで
変わることはないよ。舞はずっと
お袋と疑って接していた?」

ー今日は舞の好きなポトフよー
ーこんな服どう?似合うと思うのー
ー翔と舞は私たちの自慢ー

(私が疑心暗鬼でもお母さんは
変わらなかった)
ー舞、今日はみんなでドライブするかー
ーお母さんにはナイショだー
ー舞と翔が生きていればいいー

(お父さんはいつも笑っていた)

「そんなこと、ない。お母さんも
お父さんも愛してくれてた。
なのに、私は、疑って、離れて。
・・・もう、謝れない。
最低。」

「舞」
呼顔を上げると両腕を広げていた。
ニコニコと。
「・・・なに」

「温もり欲しくない?」
「いや、別に。暑苦しいし。
というか兄とはいえ成人済みの男の人に抱きつくのは実際に妹でも側から見たらJKだから世間的にちょっと」
「そんな引いた目で見ないでよ!
というか、去年もだけどなんで
制服なの?」

翔は私の制服を指さす。
「私服なんて高校卒業してから何年も
着るでしょ。でも学生の制服姿は
長くても12年。だから来ていられる
うちに見せておきたいなって」
「そっか、」
翔は広げていた腕を下ろして微笑む。

「あのさ、もう一つ思い出したんだけど。子供の記憶だし間違いかも
しれないけど」
「なに、」

「お葬式の時、私と同い年くらいの
男の子いなかった?」
「え、」
若干、微笑みが引き攣ったように見える
「顔は覚えてないんだけど、
身長は同じくらいだった気がする。
案外、身近にいたりして」
冗談で言ったことに返ってしたのは
「ど、どうだろうね」
濁した返事に。

ー直感した、近くにいるってー
「まぁ、今更分かったってどうにもできないよね。その子は関係ないし」
翔が安心したように息を吐いたのを
見逃すわけがない。


「私、買い物してから帰るね」
「うん、気をつけて」
先に翔が帰ってから、私も墓地を出る。

(家には類がいるし大丈夫でしょ)
夕飯を考えながら買い物をして帰る。

盗撮されていることも知らずに。
「これを発信すれば俺も
バズることができる」

とある一つの写真が投稿された。