「落ち着いた?」
「ごめん、ハンカチ」
「別にいいよ。今度返してくれれば。
「そういえば、楓さん」
「なに?」
「楓さんって近くに住んでるの?」
「そうだね。類とあった場所から徒歩
10分くらいかな」
「そっか」
(千鶴さん、遅いな。七瀬さんと
同じ反応されたりして)

「これからどうするの?
こんなこと言ってごめん。
連れてきたのこっちなのに」
「とりあえずまだ耐えてみるよ。
慣れちゃったから。それにきつい時は
類の言葉を支えにするよ」
「うん」

リュックの内ポケットに入っている
メモ帳に電話番号、家の住所を書いて
破る。
「これ、何かあったら連絡して」
不審そうにメモを受け取る。
「いいの?」
「一応言っておくけど、
他の人に見せないでね」
「もちろん。個人情報だし」

彼女がメモをしまったタイミングで
廊下から誰かから近づいてくるのを
見つけた。

「類、いる?」
ドアを開けて入ってきたのは舞。
彼女を見て固まり俺を見て叫ぶ
「・・・誘拐!!」
「違うって!七瀬さんと同じ反応
しないで」
「だって、私以外の女の子がここにいるなんて!」
「誤解生みそうな言い方しないで!!」

「ハッ!まさか・・・後輩、」
「違う、彼女は一般人」
過去のトラウマなのか舞は楓さんに
疑う目を向ける。

「大丈夫!?
類になにもさせれない?!」
「え、うん」
叫ぶ舞に楓さんは若干引いている。

「よく見たらレッスンで着てる
ジャージだ。類、貸したの?」
「うん、元の服はビショビショだったからね。体、温めても意味ないでしょ」
「それはそうだけど」
「今更だけどなんでいるの?」

「ほんと今更だね。千鶴さんに送って
きてもらって。
七瀬さんから連絡があってね。
女の子がいた方が心強いんじゃない
かって」
「ありがとな」
視線を向けられた楓さんは刺々しさの
ない柔らかい声で目を伏せた。

「千鶴さん何か言ってた?」
「いや、別に」

「とりあえず、ありがとう。
私はもう帰らないと。
七瀬さんに言っといてくれる?」
「それはいいけど」
俺の心情を察してか楓さんは微笑んだ。
「大丈夫だよ、類。
現状に諦めるのはもうやめる。
うまく逃げてみせるよ。
隣で待ってくれてありがとう」

俺が笑うと釣られたように楓さんは
控えめに笑った。
その表情はとても綺麗だと感じた。

楓さんが帰った後、千鶴さんが息を
切らして戻ってきた。
色々なトラブルが重なったらしい。

家に帰っても彼女のことを考えていた。
痛い思いをしていないか、
苦しくないか、疲れてないか心配だ。
(舞たち以外でこんなに気かがり
なのは初めてだな)

彼女からの知らせをどこかで期待して
仕事をしたり、宿題を片付けて
あっという間にお盆期間になった。

お盆休み最終日に楓さんから封筒が
届いた。当たり前だが近況が
書かれていた。

お盆休み初日、親戚の集まりで
暴力時の録画や母親のレシートを暴露したこと。
外面ばかり良かったがあの場で父親の
本性が出てくれて結果的に祖母の
妹の息子夫婦に引き取られることに
なったらしい。

いじめの方もなんとか、
自分で対策してしてみせる。
最後に住所が書かれていた。

(よかった、とりあえず現状を覆すことができて)
口角が上がったのは安心か、
それとも・・・。

同じ頃、別の場面では箱が
開きかけていた。
「私と同い年くらいの男の子
いなかった?」