「腕、頼む」
そう声をかけられてロック画面を適当に
触っていたスマホの画面を暗くした。

片腕だけ脱いで差し出すとスマホを
置いてソファの横に跪いて、消毒液を
つけた脱脂綿を傷に軽くつける。

包帯を巻くのも上手かった。
「慣れてるんだな」
「まあね」
他にも見える範囲で怪我に、湿布などを貼っていく。
「こんな感じかな」
「言っとくけど礼は言わないからな」
「期待してないよ。勝手にしただけだし」

「なにがあったか、て聞いたら怒る?」
控えめに聞くとまた棘のある返し方をされた
「解決できんの?家庭の問題を」
(舞の方がまだ可愛く思えてきた。
楓さん、舞と比べ物にならないくらい
口が悪い。もともとなのか、そうさせたのか)

「できない」
「じゃあなんで」
「解決はできない。でも共有する事で
ほんの少しでも息を吸いやすいようにしたいんだ」
(俺がそうだったから)

「私、肺が弱いわけでも、喘息ってわけでもない」
「身体的にじゃなくて心だよ。楓さん、
悩みが喉に引っかかって息苦しそう」
「あんたになにがわかるの」
少し動揺したように瞳が揺れる

「わからない。さっき会ったばかりだからね。
でも俺は、少しでも力になりたい」
「疲れて休みたいって言っている人にかまわないで手を引くの?
背中を押すの?」
「隣で、同じ目線で相手が歩けるまで自分も留まりたい。
手を引くことも背中を押すようなこともしたくないけど相手の受け取り方
だから難しいね」
(優しい雪希ならこう言う)

「類は自分のこと好き?」
「難しいことを言うね。
好きでも嫌いでもない。」
「自分の長所は言える?」
「長所、か。周りからは顔がいい、とかイケボとか言われる。
でも長所かって言われると違う気がする。
面と向かって聞かれると難しいね。
周りからの評価と自分自身の評価は=ではないからね。
でも長所も短所も紙一重だよ」

「紙一重?」
「楽観的、言い換えると空気が読めない。
慎重は臆病。真面目は堅物。ほら、捉え方で全く意味が違うでしょ。
周りの評価も大事だけど自分で自分を
評価するのも大事だよ。
マイナス思考もプラス思考も自分の頭で書き換えられるんだから」
(頭のいい蓮はこんな言い方かな)

「他人の言葉を信じていいの?」
「自分以外はみんな他人。
SNSと一緒だよ。家族や友達に言えないことでも顔も知らない相手なら
相談できる。他人だから、変な気を使う必要ないからね。
自分でAだも思っていても人によってはBやCになる。
新たな視点を見つけて、思考を広げられる。
でも全てを信じようとすると本当の自分の気持ちがわからなくなるから
ほどほどにね。」
(よくエゴサしてる舞はこんなこと考えてそう)

「私の話、聞いてくれる?」
「もちろん」

割愛すると父の暴力、母の浪費、
学校でのいじめ、まぁ見て分かるが
教師は突き放した。

「類のこと信用したわけじゃないから。あそこに戻るくらいならどこでも
よかった」
「初めから人を信じるなんて無理な
話だよ。」
「一回、先生に言ったんだ。
苦しいって。そしたら
他の人はもっと苦しい、辛いって
言われて。でも私は、これが・・・
限界で」
徐々に声が震える

「抱えられる苦しさ、辛さや悲しみは
それぞれだよ。
辛かったね、苦しかったね。楓さん。
よくがんばったね、えらいね、
すごいね。話してくれてありがとう」

声を押し殺そうと下唇を強く噛むが、
涙は止まらない。
ハンカチを出して受け取ると頭を2度
軽く叩き、彼女が落ち着くまで待った