「翔さん、大丈夫なの?」
お見舞いから帰ってきてから雪希に
そう聞かれた。
「うん、大丈夫。
明日には退院するって」
「そっか、心配してたんだ。
お見舞い行けなかったけど」

類と蓮は仕事でいない。
雪希と2人きりは久しぶりだとふと
思った。

「なに?僕の顔じっと見て」
「ねぇ、雪希」
「ん?」
「雪希に限った話じゃないけど
息抜きできてる?」
「どうしたの?いきなり」
「STEPと雲泥の差だけど忙しいのは
私たちもでしょ?息抜きできてるのかなって」

「類と蓮はわからない。
でも僕は大丈夫。今度の休みに咲くん
たちと出かける計画立ててるんだ」
「夏休みだもんね。
楽しめてるみたいでよかった」

(明日、久しぶりに帰ってみようかな)
夕飯の時に伝えて翌日、実家へ。
「いつも通りだけど、一通り掃除して
おこうかな」
自分の部屋、翔の部屋、リビング、
キッチン、お風呂、ざっくりだが、
掃除をして椅子に座って一息つく。

(思ったより時間かかった。
バケツの水かえるのに何往復したかな)
自分の部屋のドアに手をかけた時
ふと思った。
(お父さんたちの部屋、
入ったことないな。)

まずお母さんの部屋に入る。
でもノブを握る手が震えて、手汗が
出てきた。
(部屋に入るだけなのに)

隅に埃が溜まっている。
踏むたびに埃がまうと思っていたが
そうでもなくて安心した。
窓を網戸だけにする。

「クシッ」
(でもくしゃみはでるか、?)
ベットの布団の上に山積みのノート。
(埃が被ってないから最近?)
19から下に行くたびに数字が若くなる。
(日記・・・天宮美緒?)
裏表紙には持ち主だと思う名前。

1番下にあった3と書かれたノートを開くと翔を身篭っているときの話だった。
(美緒ってお母さん?天宮って
翔の芸名)

出産、育児、日常、最初の方はほとんど
育児だった。11冊目で私が出てきた。

とても可愛い女の子。
翔が生まれた前につけたいと思っていた名前をつけられることに喜びを
噛み締める。舞、どんな道を選んでも
華麗に羽ばたいてほしい。

喋るのは他の子より早かったが
歩くのは時間がかかった。

舞は翔が大好き。仲がいいのは嬉しい
けど少し寂しいな。

16冊目、
あの子の異変に気づくことが出来なかった。いや、わかっていたのに大丈夫だと
楽観視して。こんな母親でごめんね、舞

あきらは、とだけ書かれていたが二重線で
消されていた。
(愛してくれてたのにごめんなさい、
お母さん。あの時、
泣けなくてごめんなさい)

ノートにシミを作ることだけは避けたくてノートを置いてベットから離れる
「翔も舞も私たちの誇りよ」
「え、」

聞こえた懐かしい声
風が吹いてノートは勢いよくページを
めくる。
(気のせい、都合のいい幻聴だ)
ノートを順番通りに重ねる。

本に溜まるほこりを払い、軽く掃除を
して窓を閉めて部屋を出た。

類たちには明日帰るとだけメールして
スマホの電源を落とす。
翌朝、軽い朝食を取ってから
家に寄らないで仕事に行く。

「ありがとうございました」
夕方、1日の仕事が終わり家に帰る。
「おかえり」
「ただいま、蓮」

「おかえり、舞」
「雪希と類は部屋?」
「そうだけど」
(なんかムスッとしてない?)

「蓮、調子悪い?」
「別に」
「そう?」
立っている蓮をおいて自室へ向かう。

(目の前にいるのは俺なのに)
「ムカつく」