「え、親戚いたんだ」
「覚えてなくても仕方ないよ。
半年に1回あるかないかだし。
それにあの人が来てたのは俺が14の時
までだったから」
「そうなんだ。でもなんでその人が
今になって?それにみおのって?」
(他にも聞きたいことはあったけど
1番はこれ)

「・・・さぁ、来たこともわからないしみおのもわからない。聞き間違い
じゃない?」
「そう、かな」

(みおの、じゃなくてみお。
お袋の名前。これだと親父の名前も。
未だに舞は思い出せていない。
多分、年少からあの事故までの記憶を。
あの約束も覚えてない。彼のことも)

「さっき翔が眠っている時、
思い出したんだ。事故でお母さんたちが霊安室にいたこと」
「え、」
「翔も私も泣いてた。でもその前の
ことは思い出せなくてさ」

思ってもいなかった言葉に思わず
聞き返す
「思い出さなくていいんじゃない?」
「え?」
「いいんじゃない?
思い出さないといけない重要なことでもないんでしょ?」
「それは、そうだけど」
「ね、時間はたくさんあるんだ。
急がなくていいんだよ」
(思い出さなくていい。
傷ついてほしくない、泣いてほしくない)

「その後のことはまだ?」
「うん、わからない。
思い出さなくてもいいかなって」
(その方が彼にとって好都合)

ゼリーのカップをゴミ袋に入れて、
膝に置く。
「不憫ね」
出入り口に目を向けるとさっき
すれ違った人がいた。

「あきらさん」
腹の底からでた声は憎しみを感じる。
「あら、そんなに牙を向けないでよ。
頭に血でも上っちゃってる?翔くん」
ニヤついていたその人を翔は睨み

「なにをしに来たんですか?」
「甥と姪の様子を見にきたら悪い?」
「親父たちが死んで葬式にもでない。
連絡一つしない。その口で様子を?
ふざけないでください!」

「翔、起きたばかりなんだから安静に」
落ち着かせようとしたら今度はこちらに
目をむく。
「どう?舞ちゃん。
死んだ姉のお金で生活してきた気分は」
「え、」
「あきらさん!」

翔が吠えたタイミングで
再び病室のドアが開く。
入ってきたのはさっきとは違う看護師
さんで聞くと他の病室の人から騒がしいからなんとかしてと言われた、との事。

あきらさんは翔が万全じゃないからと
看護師さんに押し出された。
「また来るね」
と笑うあきらさんに対して
「もう二度と来ないでください」
と睨みながら返した。

静かになる病室。
「舞」
「ん?」
「なにがあっても俺は舞を見捨てない」
「え?うん」
(たとえ記憶を取り戻しても)

舞は夕食の前までいてくれて
(たまに小言を挟むが)
帰っていった。

途中に涼太と司が来てくれた。
舞の活動を聞いたり、俺たちの活動や
日常での面白かったことを4人で
語り合い、とても楽しかった。
あの空気が嘘みたいに。
(その空気を流したのは俺だけど)

みんなが帰ってからは誰かが歩く音、
カラカラと車輪が動く音がたまに
聞こえるくらいでとても静か。
(入院棟はそんなもんか)

舞が記憶を無くしたのは、
全てあきらさんのせいだ。