舞が急所をついてきた。
(まだ知らないで欲しい。せめて
予選が終わるまで)

「い、類、ねぇ聞いてる、
大丈夫?」
蓮に肩を叩かれてハッとする。
周りを見ると他のスタッフさんも
心配そうな顔をしていた
「ごめん、大丈夫、平気だよ。
すみません、ぼーっとしてしまって。
緊張しているのかもしれません」

スタッフさんは安心してすぐに和んだ
空気に変わったが蓮だけは何かを
探るような目をしていた。

帰り道
「類、ちょっといい?」
「え?」
後ろを歩いていた蓮はバックの肩紐を
掴んで制止した。

「ごめん、2人とも先に行ってて」
「う、うん」
舞と雪希はどんどん離れていく。
俺は内心かなり焦っている。

近くの公園のベンチに座る。
「類はコーヒーでいい?」
「あ、うん」
近くに自販機があり、コーヒーを
奢ってくれた
「ありがとう」
(言い逃れはできないな)

蓮は珍しくスポーツ飲料
「それで、単刀直入に聞くけど
何かあったの?ずっと上の空で」
「え、そんな上の空だった?」
「うん、レッスン後に間違って俺の
上着を着るくらい。」
「あれは、・・・ごめん」

話題を逸らそうとするも蓮の視線が
許さない
「話すよ。
でもこの話は蓮にも重荷を背負われることになるかもしれない。
それでも聞く?」
一応、確認をするも蓮は頷いた。

あと他の人に話さない。
特に舞には絶対に」
「わかった」
少し低くなった声に蓮も声が少し
低くなった

「俺の父親は日比谷夫妻を
死に追いやった」

ー7年前ー
あの日、俺は塾に行く直前だった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、類」
玄関を開けた直後電話が鳴った。

「はい、蒼葉です。はい、・・・え、
主人が?」
俺は別に気にすることなく行こうとしたが気になる単語が出てきてしばらく
待っていた。

「はい、失礼します」
受話器を置いた、
さっきまでの明るい声はなくその声は弱々しかった。
「母さん?」
「お父さんが交通事故を起こしたって。お父さんは軽い怪我で済んだけど、」
(「は」?)

「父さんはトラックの運転手をしていた。あの日、対向車がいなかったのが
幸いだった。
道路沿いの公園からボールを追って道路に飛び出した子供を避けたがブレーキが間に合あわなかった。
対向車線側を歩いていた日比谷夫妻と
ぶつかった」

(お葬式の時に見た虚な目をした
舞を、決意した表情の翔さんを
今でも鮮明に覚えてる)

「類、」
「怖いんだ、舞が真実を知ったら、
リーダーじゃなくて加害者の息子として
俺を見る事が。
あの時子供がいなかったら、
あの時夫妻が歩いていなかったら、
ただの蒼葉類として
いられたのに・・・!」
組んだ手は震える。
声も力が入る。

「類にこうしたらなんて簡単に言える
問題じゃないけど、どちらを選んでも
どんな結果になっても俺は変わらない。
舞を非難するつもりも擁護するつもり
もない。類に対してもだ」
現状は変わらないけど、その言葉に
安心した

「・・・わかった。
ありがとう蓮」