「え?いきなりなんですか」
「いきなりじゃない、ずっと考えていた。アイドルになった君は恋愛もできない。誰かに会うときは気を使う。
そんな生活、窮屈じゃない?」

(たしかに、翔と会うときは細心の注意を払っている)
「でも、それがあなたに関係ありますか?たしかに先輩の言った通り、
はっきりいって窮屈だと感じことは
あります。でもあなたがそれを指摘してなにになるんです?
私はそれもわかった上で
アイドルをしているんです。」

「じゃあアイドルを辞める気はない?」
「あるわけないじゃないですか」
無意味な質問にイラついてきた。

今の私は嫌悪感を包み隠すことができていない、とてもアイドルとして世に
出すことはできない。
「君、そんな表情もするんだね」
「あなたがそうさせているんです。」

こんな表情をしていても先輩は
笑っている。嫌悪を通り越して
呆れてくる。
「会長、もしかしてMの気質があるん
じゃないですか?」
「褒め言葉として受け取っておくよ」 

(確か夏合宿の時、
類が同じこと言ってた。
いや、類の方がマシだな。
なんか会長は嫌な感じがする)

と警戒心MAXでいると、
「公式のホームページで知ったんだ。
君がアイドルになった理由」
「っ!」

嫌悪感は、恐怖に変わった。
漬け込まれたらどうしようもいう不安に
「憧れた人がいる。
同じステージに立ちたいからアイドルになった。それで、その人に近づけた?
同じステージに立てそう?
目処は立っているの?
君がそこにいる間にその人はどんどん
先にいく」

最後の耳元で囁かれた言葉に、
私思わずビンタしかけたが
今度こそ傷害罪になりかねないから
握り拳をつくり必死に耐えた。

「そんなこと初めから分かってます!
私が一歩進んでもあの人は何歩も先を
行く!
でも!憧れてるだけじゃ進めない!
なにも変わらない!
変わらないのが嫌だから、
変わったんです!」

勢いよく顔を上げて口走る言葉に会長は
面食らっていた。
「分かってます、
・・・私が成長できてないのは。
あの人と同じステージに立てると思った時にあの人は引退しているかも
しれない。それでも何かは残る。その
何かに縋って私はアイドルをしてる」

「へぇ、ならさその縋りを俺にしない?俺は君の全てを知りたい。
何が楽しくて何が苦しいのか、
これから君とを知っていきたい。」

さっきの感情はすぐにどこかに行き、
私の心中は穏やかになる。
(本当、都合いいよね、私も)

「口説き文句なら結構です。
不安も苦しみも喜びも楽しさも
彼らといたから知れたんです。
私はこれからも進んでいくんです。
彼らと一緒に。
たとえ解散になっても私たちの絆は
切れません。あなたの入る隙なんて
少しもありませんよ」

私の固い意志に会長は
「俺を甘く見るなよ。
いつでも俺は舞を狙っているから」
(いつかこの人犯罪に手を染めそうで
怖い)

「私はあなたに捕まりません。絶対に」
「いつかその考えを覆してあげる」
ニヤリとわらったがその笑顔に恐怖は
感じなかった。

先輩を残し
階段を降りる途中で気づいたから
振り返る。
「会長、前はあの人の隣に立つことに
縋っていました。
でも今は、強いて言うなら、私は
彼らとの絆に縋っているのかも
しれません」