「えっと、蓮。実践できたんだから、
下ろしてくれない?」
「あ、下ろしたいのは山々なんだけど」
私を一目見て何故か向こうを向く蓮。

「なに?」
「どうやって安全におろそうかなって」
(・・・!
気づかなかったけど、腕が震えている)

「れ、蓮?」
「じゃあ姐さん、手を貸してください、支えますから。」
坊主先輩の計らいで差し出された手に、
「ありがとうございます」

片手を伸ばそうとした。が、
触れる寸前で先輩の手との距離が
伸びた。
「?」
「あの蓮さん?」
坊主先輩が控えめに言うと
蓮はハッとした。

「あ、すみません。でも大丈夫です。
さっきやったのと逆のことをすれば」
蓮は慌てたが、動作はゆっくりで
右足を立て、私を座らせた。

膝に回していた手を話し、
ゆっくり立ち上がる。
「まぁ、こんな感じです」
作り笑いを浮かべて、両手を背中に隠す

「蓮、大丈夫?
無理したんじゃない?」
「大丈夫、でも本音をいうとおも、
なんでもない」
「お、重いって言おうとした!?」
「な、なんでもない、言葉の綾だよ!」

詰め寄ると両手を胸の前で、降参の
ポーズをした。
それを何故か先輩達は和やかそうな表情で眺めていた。

「どうかしましか?先輩方」
「いやなんでもないっす、姐さん。
姐さん、蓮さんも付き合ってくれて
ありがとうございましたっす。」
モヒカン先輩はそういうと

「あ、そうですか。
では俺は失礼します」
「え、蓮」
私の声も聞かず蓮は踵を返し、
走っていく。
(どうしたんだよう?
やっぱり重くて腕痛めたとか!?)
百面相を、先輩達はニヤけて見ていた。


舞の声を無視して、
俺は校舎の中に入る。
(クールにできてたよね)
さっきまで抱えていた腕が暖かい気
がする。

抱えた時に感じた柔らかな肌、
小さな肩、想像以上に軽い舞に
違う意味でドキッとした。

そして今までにない至近距離、
恥ずかしくなったのをバレたくないから
向こうをむいたけど気づかないでと
願った。

長いまつ毛、ふっくらとした頬、
すらりとした鼻筋、艶のある唇。

やると言ったのは俺だけど、ほとんど
理性との戦いだった。
咄嗟に安全におろすやり方を考えたと 言ったけど正直ギリギリだった。 

少し力を入れたら壊してしまいそうで
怖かった。

先輩の差し出された手、
もちろん善意だと分かっている。
でも気づけば一歩下がっていた。

舞の声に心臓が脈打ったが、
気づかないふりして舞を下ろす。

先輩達は気づいたらしいけど、
舞には知られたくなくて、
話を切り上げて戻ってきた。

あれは嫉妬。
触れられたくないという気持ち。
離れると思った寂しさ。
まだ抱えていたいという本音と
危ないという本能の板挟み。

驚いた顔も緊張の表情も
俺だけに見せてほしい欲望
一気に色々な感情でわからなくなった。

あの時はわからないって類に行ったけど
多分この気持ちや胸の苦しさが
好きなんだと再認識した。、

ー君は彼女を恋愛的に好きになったとして告げるつもりはないのか?ー

ー絶対に告げません。
関係にヒビが入ったら俺たちは
変わってしまうのでー

(あんな強気なこと言っておいて・・・
恋愛的に好きになるとか、
でも告げないって決めたしな。
幸い?舞は鈍感そうだし、でもあの2人は敏感そう。気をつけよう)