のどかな風景。
茉里の後に続いて、タイヤの跡が
残っている土の上を歩く。
周りは木ばかりで、向こうより少し
涼しく。

「ここ、」
大きな門下前、その向こうに瓦の屋根の家が見える。
緊張で震える手を握り深呼吸する。
「行こう」

門をくぐり、家のチャイムを押すと 
中から明るい声が。
「はーい」
玄関を開けて満面の笑みの母、  
たまきさん。その笑みは一瞬で崩れた。
「おか、なんで」

「お久しぶりですね、
直接会うのは病院以来でしょうか?」
たまきさんと俺は睨み合い、
そして視線を茉里に向けた。
「茉里、どういう事?
なんでこの人がいるの?」

冷めた目で見られた茉里は少し
怯んだが
「この人って何?
家族でしょ?
なんでそんな他人みたいな言い方?
・・・ずっとそうやって差を
つけてたの?!」
茉里のキレた顔を初めて見た。

(記憶にある茉里は
病弱で苦しそうな表情と
笑顔がほとんど。
茉里がキレるのは正直怖いけど、
牙を向けられるほど元気になったんだな)
とポーカーフェイスで
茉里の成長をしみじみと感じていた。

「あら、イケメン。
茉里ちゃんの彼氏?」
奥から顔を覗かせたのは、
祖母のかよさん。

(孫に会った第一声がそれ?)
「おばあちゃん、見覚えない?
お兄ちゃん」
「こんにちは」
茉里の紹介で頭を上げると
祖母、かよさんは目を皿にした。 

「まぁ、蓮ちゃん!
は、年齢的に失礼ね。
久しぶりね蓮くん。」
にっこりして、

「久しぶりの再開なんだから
玄関で立ち話じゃなくて、
上がればいいのに」
(かよさんは知らないのか?)

にこにことした顔にたまきさんは 
踵を返して俺と茉里も玄関を上がった。
「何もないけどゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
コップに入った麦茶とお茶菓子を
出されて、
長方形の大きめなちゃぶ台をはさみ
畳に座る。

「蓮くんは今高校生かな?
学校は楽しい?」
「はい、とても」
「でも元気になってよかったわね。
ずっと入院しててほとんど学校に
行けなかった分、楽しまないとね」
「え、」
反射的にたまきさんを見る。

「どう言う事?たまきさん」
「な、実の母親に向かって」
「そうさせたんでしょ?あなたが。」
「悪いけど、私もたまきさんって
呼ばせてもらう。
母親だなんて思いたくないよ」
かよさんは話を飲み込めず、
眉を顰めていた。

(当たり前だよね。こんな話、
ついていける方がおかしいんだ)
「かよさん、俺は中学2年の時、2ヶ月
だけでそれ以来は入院していないよ」
「どういうこと、たまき」
たまきさんは何も言わない。

「おばあちゃん、聞いて」
それから俺たちは全て話した。
俺がどうやって生きてきたのか、
私たちがどうして再会できたのか
お互いに死んだと言われたこと。

たまきさんは真っ青になり、
かよさんは震える手を口に当てた。
「そんなことが、・・・
何も知らなくてごめんなさい」
「いえ、かよさんのせいではないので」

「たまき、なんでそんな事をしたの?」
かよさんの問いにたまきさんは
青ざめていた。
「だって、出来る子に愛情を注ぐのは
当たり前でしょ?できない子は
ほっとくんでしょ?
母さんだってそうしてたじゃん!
なんで私ばかり責められるの?!」
(そうしてた?)

心当たりがあるのはかよさんの
肩は跳ねた
「私はそんなことしないよ」
「してたよ!
口を開けばおねえちゃんおねえちゃん。私のことなんて見てなかったくせに!」