「ただいま、類」
類は少しどいてくれて隣に座り
さっき買った缶ジュースを渡す
「誰かに会った?」
「うん、立花に。すぐ別れたけど」 
「そっか」
私の方を見ないで淡々と話す。
プシュッと缶を開けて飲んだ。

2人で海を眺めていると
「舞ってさ、誰かに好意を向けられて
どう思う?」
「立花のこと?」
「うん、まぁ」
うやむやな返事に疑問をもつが

「第一印象でも好意をもってくれるのは嬉しい。でも嬉しい以上に、はっきり
言って迷惑かな。
私の仕事を知らないならまだしも
知ってて尚、告白とかされると困る。
その都度断るのも嫌だし、
相手にもその後気を使いそう」
「ふーん、
立花とはあんな勝負受けといて?」
「長引きそうだったからね」
(舞のガードは堅そうだから
心配ないけど)

「仮に、・・・。
いや、やっぱりいいや」
「なに?さっきから歯切れが悪いよ」

(仮にチーム内の誰かが恋愛的好意を
抱いている人がいたら?
なんて存続の危機になりそうな事
言ったらダメだよな)

思い詰めた顔をしたと思ったら、
缶をクーラーボックスに置いて
類は寝転んだ。
「どうしたの?日射病?」
「いや、単に眠いだけ」

類が持ってきたバックからタオルを出してアイマスクのように乗せる。
しばらくすると規則正しい
寝息が聞こえる。
(宿題、登校日、仕事、
類はドラマの撮影があるから
大変だよね)

羽織っていたラッシュガードを
類にかける。
不意に私のスマホが鳴り開くと
翔からだった。

電話していい?
の一言、
(珍しいな)
と思った瞬間に翔から着信が。

「久しぶり~。
こっちも忙しくてなかなか電話
出来なくてさ」
電話の向こうのはしゃいだ声に
若干げんなりしつつ

「何の用?」
「まぁ、焦らないでよ。
せっかく電話してるのに」
「今、平気なの?」
「休憩中、少しなら平気」 

「ん、」
類が起きそうだから音量を下げて
声をひそめる。
「それで、用件は?」
「会いに行くの、今度の休みで大丈夫?親父たちに」
「大丈夫。でも午前中がいいかな、
午後は立て込んでるから」
「午前中か。わかった。
なんとか空けとくよ」
「空けとくって、やっぱり忙しいの?
別々でいいんじゃない?」
「なんとか空けとくから行こうよ。
久しぶりに会いに行くのに、
片方だけなんて拗ねるぞ」
(拗ねるか?)

「お盆期間も宿題に追われたり、
そっちも仕事で忙しかったりで
会いに行けなかったからね」
「そうだね、じゃあ決まりだ。
ごめん、そろそろ切る」
「うん、わかった」

電話を切り類に視線を向けるとむこうを向いていた。
「類、起きてる?」
「・・・今、起きた」 
「もしかして今の声で?」
「いや、そんなことない」
「会話、聞こえてた?」
「・・・なんのこと?」
「いや、なんでもない」
類は体を起こして、立ち上がる。

ラッシュガードに袖を通して、
「そろそろ蓮たちの様子見に行かない?貴重品だけ持ってさ、」
振り向いた笑顔に違和感があるが、
別に気にしなかった。
「うん、そうだね」
私も自分のラッシュガードを羽織り
防水ポーチにスマホとお財布を入れて
先を歩く類を追いかける。

「す、すごい」
砂のお城は想像を超えていた。
「お城っていうか宮殿、」
2人して圧巻していた。

壁の細かな模様、均等な階段、
屋根の装飾品、どれをとっても
綺麗だった。

何故か蓮の顔は強張っていた。
「どうしたの?蓮」
「舞は会長にあった?」
「生徒会長?会ってないけど」
「ならいい」
(類といい蓮といいどうしたんだろう)

「2人ともすごいね」
類の言葉に蓮は
「そう言ってもほとんど雪希だけどね。
俺は山を作っただけであとは雪希が
作った。」
蓮の手は水と砂を触ることを繰り返して
すこし厚くなっていた。
「すごいね、雪希」
雪希は砂が指先に集中して爪にも食い込んでいた。
(痛そう)

「やってるうちにどんどん
凝ってきちゃって」
最後にお城と、
雪希と蓮の手を撮り、SNSに類がアップ
して、お城作りは終了。

帰りの電車で、くたびれた雪希と蓮は
類のもたれかかって寝ていた。
「重い、」
類の小言に苦笑して、海を眺める。