MCの女性が慌てた様子で、口を挟んできた。

「はい、では次の方いきましょうね」
「弁護士の妻なんだし、セレブ路線で売ればいいじゃないですか。どうせ仮面夫婦でしょうけど」

MCの進行を遮り、なおも彼女は言った。無邪気な口調がいっそう不協和音を奏でる。
私は背筋を正し、まっすぐに彼女を見つめた。

「イメージアップ……そういった考えもなかったわけではありません。私はもともと、こういった家庭料理が好きなので、見た目重視のおしゃれな料理で評価されていることにずっと疑問を覚えていました」

観客がざわつくのが感じられた。見る余裕はないけれど、モニターにも視聴者の反応があるだろう。
それでも言うべきだと思った。私と史彰について、本当のことを。

「夫も私も周りの評価を変えたくて結婚を選んだのは事実です。ですが、私たちには愛があります。どこにでもいる普通の夫婦です。私が作った料理を、夫が美味しく食べてくれる。私はそれだけで幸せですし、喜びを与えあう関係でいられる。夫婦ってそういうものではないですか?」

微笑みは自然と溢れていた。私は史彰が好き。それだけは胸を張って言える。
私たちの出会いが間違っていたとは思わないし、結婚の選択が軽率だったなんて思わない。

「仮面夫婦なんかじゃないですよ。私は彼を愛していますから」