私の両手首はものすごい力でつかまれていた。じりじりと熱いのは彼女の爪が食い込んでいるからだ。
「桜澤先生、どうしてですか? 動画、ひどいじゃないですか。あんなに忠告したのに」
「何を言ってるの、離してください」
「あなたは素敵なお料理を作る人でしょう? あんな庶民が食べる汚い色の料理を作っちゃ駄目です。お手紙でも伝えたし、リプだっていつも送っているじゃないですか。どうしてわからないんです。あなたのためを思って言っているのに」
早口でまくしたてられ、やはりこの女性があの手紙の送り主なのだと理解した。
直接会いにくるなんて。しかも、こんな強引な手段に出るなんて。
手紙も三ヶ月前に一度だけだし、はっきりとした嫌がらせをされているわけでもなかったせいか、油断していた。
「古参ファンの言葉は金言です。あなたは私の言う通りに動画を上げ続けていればいいんですよ。もちろん、素敵なライフスタイルを紹介する動画はいいと思います。あなたのイメージに合いますから。でもあの男は駄目。絶対駄目です。生活感なんか出したら許さない」
最後の方はうなるような声だ。殺意すらにじむ言葉に、ぞっとしながらも、私は必死に腕を振りほどこうとする。
しかし、常軌を逸した人間の力は恐ろしいものがあった。同じくらいの背格好の女性なのに、腕を振り払うことができない。
「あんな男に騙されて所帯じみていくあなたは嫌。おばさんになんかならないで。桜澤先生はずっと綺麗で、おしゃれで、完璧で……」
「あなたに私の何がわかるの」
こんな問答を仕掛けては駄目だとわかっていた。話の通じない相手に何を言っても無駄だ。しかし、言い返さずにはいられなかった。
「桜澤先生、どうしてですか? 動画、ひどいじゃないですか。あんなに忠告したのに」
「何を言ってるの、離してください」
「あなたは素敵なお料理を作る人でしょう? あんな庶民が食べる汚い色の料理を作っちゃ駄目です。お手紙でも伝えたし、リプだっていつも送っているじゃないですか。どうしてわからないんです。あなたのためを思って言っているのに」
早口でまくしたてられ、やはりこの女性があの手紙の送り主なのだと理解した。
直接会いにくるなんて。しかも、こんな強引な手段に出るなんて。
手紙も三ヶ月前に一度だけだし、はっきりとした嫌がらせをされているわけでもなかったせいか、油断していた。
「古参ファンの言葉は金言です。あなたは私の言う通りに動画を上げ続けていればいいんですよ。もちろん、素敵なライフスタイルを紹介する動画はいいと思います。あなたのイメージに合いますから。でもあの男は駄目。絶対駄目です。生活感なんか出したら許さない」
最後の方はうなるような声だ。殺意すらにじむ言葉に、ぞっとしながらも、私は必死に腕を振りほどこうとする。
しかし、常軌を逸した人間の力は恐ろしいものがあった。同じくらいの背格好の女性なのに、腕を振り払うことができない。
「あんな男に騙されて所帯じみていくあなたは嫌。おばさんになんかならないで。桜澤先生はずっと綺麗で、おしゃれで、完璧で……」
「あなたに私の何がわかるの」
こんな問答を仕掛けては駄目だとわかっていた。話の通じない相手に何を言っても無駄だ。しかし、言い返さずにはいられなかった。



