「そうね。若菜には一緒にきてほしいかな」

先ほどまで若菜と一緒に打ち合わせをしてきたのは、食品企業協賛のイベントだ。
生配信で料理を作り、会場には観客も入る。メニューも家族みんなで楽しめるホットプレートランチと銘打っているので、気取った見栄え重視の料理を求められてはいない。

「緊張するけど、楽しみな仕事だわ」
「夕子の料理研究家としての魅力を見せつけてやりなさい」

ようやくこういったお仕事が入り始めているのは、若菜の手腕と動画の路線変更の効果。
妊娠出産でお休みを挟むのはもったいない部分もあるけれど、それは授かりものだし、何より史彰との愛の結晶を授かったことに勝るものはない。

ともかく、若菜にとっても産休前の一番大きな仕事にはなるだろう。
私もつわりが落ち着く安定期と呼ばれる時期に差し掛かるだろうし、おそらく問題なくこなせると思う。生配信については、此村先生のアシスタント時代に生放送を何度も経験しているので勝手はわかるつもりだ。

「頑張ろうね、若菜」
「期待してるわよ、夕子」

私たちは拳を握り、軽くぶつけあった。