柔らかく触れ合った唇は、何度か角度を変えてまじわったけれど、それ以上深く重なりはしなかった。
名残惜しく唇を離し、私たちは互いをじっと見つめた。

「下心があるって思われても仕方ないけど」
「うん」
「夕子、俺たちに子どもは要るかな」

私は目を丸くし、彼を見つめた。考えたけれど、敢えて言わないでいた言葉だ。

「イメージアップのために? 子どもを作るの?」
「えっと……命だから、そう簡単に考えているつもりはないけど……、親になるのは俺たちの関係上、せ、精神的な向上につながるんじゃないかって」
「そうじゃないでしょう?」

私は真剣に彼の眼を覗き込んだ。薄茶の瞳の奥にある真実が私には見えている。飾り付けたお題目じゃなくて、本音を言葉にしてほしい。

「史彰の言葉で聞かせて」

史彰がぐっと唇を引き結んだ。緊張に眉を震わせ、それから私は真っ直ぐに見つめ返す。その目には情熱と誠意が宿っていた。

「夕子がほしい。俺が夕子を抱きたい」

私は腕を伸ばし、初めて自ら史彰に抱きついた。首に腕を巻き付け、身を寄せる。心臓の音が二つ分、ふたりの身体に共鳴している。

「私も史彰がほしいよ」
「夕子」

頬に触れ、引き寄せ合い、もどかしくキスをした。
深く絡ませ、唾液をなじませ、鼓動も体温もひとつになりそうなキスだった。ものすごく幸せで心地いい。

ソファの上、暗い照明の下、服を脱がせ合った。
触れて、見つめ合って、世界中にはお互いしかいないような錯覚すら感じる。
重なる頃には、私の全部が史彰でいっぱいだった。