「結構、怒ってるんだよ、俺」

史彰が低い声で言う。

「夕子に手紙を送ってきた人間に対して。こういうことをする人間の多くは想像力が著しく欠如してるんだ。相手がどう感じるかを考えるより、自分の主張をぶつけるのが先で、それが叶えられて然るべきだとなぜか思っている。でも、主張をぶつけられた方はたまらないよな。不意打ちだし、怖いし、意味がわからないよな」

こくんと頷いた私の髪に、史彰の吐息がかかる。あたたかくて心地がいい。

「だから、夕子に一方的な感情をぶつけて傷つけた相手に怒りを覚える。あと、俺たちの結婚に外野が文句をつけるなって思うよ」
「私たち、幸せだもんね」
「ああ、契約婚かもしれないけど、俺は夕子との関係はベストだと思ってる。こんなヤツに否定されたくない。俺の方が何倍も夕子のこと“大好き”だしな」

そこまで言って、史彰は黙った。
沈黙にそろりと顔をあげると、真っ赤な顔の史彰が視線をそらしていた。

「手紙の引用だから!」
「わかってるよ。私も史彰のこと“大好き”だもん」

言ってから、私も照れくさくなってしまった。
史彰から離れるのもなんとなくもったいなくて、顔を隠すように彼の胸に顔を埋めた。

「あのね、もう少しこうしてていい?」
「いいよ。俺、体温高いから、寒い日は使って……変な意味じゃなくてね」
史彰はそのあとも自分の言動にあれこれ言い訳していた。きりっとしている仕事モードの彼と、こういった普段の彼のギャップが私は好きだ。

怖い思いはしたし、そのショックは簡単には消えない。だけど、私には史彰がいてくれる。
それはものすごい安心感だった。