見たところ固いものなどは入っていない様子だけれど、一応ゴム手袋をしてハサミを入れた。
中からでてきたのはなんの変哲もない便せん。おなじバラの絵がついている。おそるおそる開いてみた。

『桜澤夕子先生へ』

それは几帳面そうな字で書かれた手紙だった。

『はじめまして。あなたのファンです。桜澤先生の動画は初期の頃からすべて見ています。桜澤先生の作る料理は、独創的で洗練されていて、初めて真似して作ったときは私にもこんな料理ができるのかと達成感でいっぱいになりました』

その手紙はそんな始まりだった。
そこから数枚に渡り、私の動画を詳細に褒める内容が続いた。これはそうとう何度も見てくれたのだなと感じられるコメントばかりで、驚きつつも嬉しかったのは事実だ。
一方で、こんな熱心なファンに住所を把握されているということにぞわぞわと背筋が寒くなっていく。
そして、ファンレターの内容も途中から変化していった。

『私は桜澤先生を尊敬しています。敬愛といってもいいです。私の人生に多大な影響を与えた人だと思っています。あなたの料理スタイルや、美しい容貌、知性あふれる人間性までもが私を惹きつけてやみません。ですが、結婚については賛成しかねます。最近の桜澤先生の動画やＳＮＳは、所帯じみた庶民的なものが目立つように感じます。それは夫である人の好みですか？　あなたには似合いません。桜澤夕子という料理研究家は、麗しく自己管理が徹底され、すべてにおいてパーフェクトな女性であると信じています。男の影響で、そのスタイルを変えるなんて、格好悪いというより気持ちが悪いです』

私を褒めるのと同等の熱量で、私への怒りが文面ににじむ。