恋ではないけれど、私の中には史彰への情が育っている。まるできょうだいに感じるような気持ち。だから、彼の上っ面に惹かれる女子たちに心の中でマウントを取ってしまう。

「私って嫌なヤツ~」

そうだ、情は私たちの関係にとても大事だけれど、すなわち性欲や子どものいる人生設計に置き換えていい感情ではない。
妊娠出産については、話すべきではない。

すると玄関が開く音がした。

「ただいまぁ」

史彰が帰ってきた。薄手のコートを脱ぎ、私を見る。

「あれ、ハイロー見てるの?」
「あ。……うん」

たった今まで史彰と彼にまつわる自分の感情についてあれこれ考察をしていたせいか、なんだかとても恥ずかしい。まともに顔が見られなくて、テレビの液晶に視線を戻した。

「テレビ見てたんだけど、やっぱり史彰って格好いいね。これは女子ウケしちゃうよ」
「いや~、結婚効果で前よりチャラ男度は下がったみたいなんだけど、まだ言われるよ。遊んでそうな弁護士ナンバーワンって。ナンバーツーとかスリーとかいるのかよ~って言いたい。俺だけディスられてる気がする」

苦笑いの史彰はネクタイを緩めながら、私の隣に座った。視線は自分が映し出される画面に向いている。

「真面目で頼りがいのある弁護士になりたいのにな。ずっとそれを目指しているのに。ボスの安治野先生の命令とはいえ、露出を増やすんじゃなかったって思うよ」