どうしたらいいのだろう。妻として……相手に名乗りをあげるべき?
それともそんな気を回すのは失礼だろうか。彼は別にそういった役割を私に求めていないかもしれないのだから。

帰宅した私はぼんやりとテレビを見ている。
ちょうど、史彰が出演している番組だ。
画面の中の史彰は、朗らかでさわやかで、だけどちょっと仕草がいかにもいい男のそれ。ふとたれ目を細める様子や、口の端を少しだけあげる笑い方、組まれた指と手の甲の骨。そういった男性的な魅力に女心を刺激されてしまう女性は多くいるだろう。現にチャラ男だなんだと言われながら、彼は女性に人気がある。

私は、出会った当初から彼を親しい仕事仲間として見てきた。同じ目的を達成する相棒だと思ってきた。彼を男性として意識してはいない。
それなのに、テレビを見ながら私が感じているのは明らかに優越感なのだ。

共演者のあのアナウンサーや視聴者のファンたちは、外向きの八田史彰しか知らない。私はもっと史彰を知っている。ごはんを馬鹿みたいに食べることや、驚いた顔がちょっと間抜けなこと、私に謝るときはちょっと情けない感じだし、休日朝の寝ぼけた顔は子どもっぽい。
そんな顔を、私以外誰も知らない。やはり、どう考えても優越感を覚えている。