「そうね、……私は子どものいない生活でもいいと思っていたけど、あんなに喜ぶ旦那を見たら、素直に嬉しいわ」

私たちは顔を見合わせ笑った。
正直に言えば、若菜が出産で抜けるのは私的には痛手だ。彼女は私のスケジュール管理や外部との折衝を担当し、車を出してくれたり動画の編集も手伝ってくれたりと、マネージャーとしては非常に敏腕だった。何より、気の置けない関係だからこそうまくいっていたのだ。
若菜の代わりを見つけるのは難しいだろう。

「産んでみないとわからないけど、できればまた夕子の仕事を手伝いたいと思ってる。サポート業って結構好きなのよ。どうかな?」
「いいの? それなら復帰を待ってるよ。若菜は私が雇用している形だし、産休と育休ってことで、ね?」

私個人の仕事なので、融通は利く。若菜からしたら、子どもを抱えて復職するにもちょうどいいのではないだろうか。

「若菜とはこれからもどんどん新しい仕事をしていきたいの。復帰するまではひとりで頑張れるから、安心して赤ちゃん産んでよ」

私の激励に、若菜がこちらをじっと見た。先ほどとはちょっと様子が違う。

「あのね、夕子と八田さんは考えてる?」
「え?」

それが妊娠出産のことだと一瞬わからなかった。
驚いて言葉にならない私に若菜が言い訳めいた口調で言った。

「デリケートな話をしてごめん。ほら、契約結婚とはいえ夫婦だし、ふたりのイメージ戦略的に子どもがいた方がいいんじゃないかって思ったの。そういう話はしたことある?」