情けない顔で頭を抱える史彰を見つめる。本当になんて善人なのだろう、この人は。

「史彰って、一緒に暮らしてみると結構三枚目だよね。抜けてるし、焦ったり困ったりすると、変な顔するし」
「ええ? そう? イケメン弁護士の肩書なくなっちゃう? 夕子的にこういう旦那は不適格ですか?」

眉を下げて、さらに困った顔になる史彰。私は噴き出してしまった。

「ううん、史彰のそういうところ、人間っぽくていいなって思うよ。好きだな」

私の言葉に史彰は目元と口元をふにゃっと緩めた。頬が少し赤い。
ああ、また見たことない表情を見せてくれる。
結婚って不思議だ。他人と家族になるだけで、嫌な面もいい面も見えてくる。内側を知って、お互いの境目が薄らいでいく感覚がある。
こうして暮らしていくうちに、私と史彰はもっと近づけるのかもしれない。特別な関係に。

「ねえ、たい焼き食べよ。ごはんも食べられる?」
「ああ、今夜のごはん何?」
「牛スジを大根と煮込みました~」
「うまそう!」

ジャケットを脱ぐ史彰とたい焼き用にお茶を淹れにいく私。
私たちの最初の喧嘩は、こうして終結したのだった。