その晩、私は食事を整え、史彰の帰りを待った。最近はあまり顔を合わせないようにしていたけれど、敢えてリビングで待つ。

「ただいま」

私が居間にいるのを見て史彰は肩を揺らした。今日も食事は冷蔵庫に入れて、部屋に引っ込んでいると思っていたのだろう。

「夕飯、食べない?」
「食べる。……あのさ、夕子。これ、お土産」

おずおずと史彰が差し出してくるのはほかほかと温かいたい焼きだ。

「これ、買ってきたの? 私が食べるかわからないのに」
「え、あ。たい焼きってみんな好きかと思って。あっためても美味しいって店員も言ってたし。でも、あんこ駄目な人もいるよな。夕子、苦手だった?」

その狼狽した様子に、おもわず笑みがこぼれた。可愛いと思ってしまった。私みたいな我儘な女相手に一生懸命になってくれて、善意の塊じゃないの。

「好きだよ、たい焼き。……史彰、この前はごめんね。言い方きつかったし、嫌な態度だった。ずっと謝りたかった」
「いや、俺が悪いだろ。あの件は」
「若菜にも言われたんだけど、あのアナウンサー、史彰のこと狙ってるみたいだよ。写真は仕組まれたかもって。だから、今回の件は仕方なかったって思おう」

史彰が少し考えるように顎を持ち上げて、頷いた。

「そう言えばあの瞬間、腕を引っ張られてちょっとこっちへって誘導された……かも。うわ、俺、どうして気づかないんだろう。仮にも弁護士なのに、隙だらけかよ」