「本当は茶色い煮物みたいな料理が好きなんです。ごはんがすすむあまじょっぱいおかずや、具沢山な汁物とか……。でも、今のイメージでやってもウケない。結婚の肩書は、私も喉から手が出るほどほしい」

顔をあげた。この決断は衝動的かもしれない。

「結婚したら、家庭的なイメージが得られますね。お互いに」
「ええ、そう思うんです。桜澤さんも俺もウィンウィンというヤツです」

おしゃれな料理ばかり作っていた料理研究家が、愛する夫のために好物の家庭料理を作る。その愛のこもった動画が、若い主婦層に受ける。
やがて私のイメージは親しみやすい主婦料理研究家に変化!
これはいい。すごくいい未来が見えた。

「八田さん、結婚してみましょうか。お互いのイメージ戦略のために」
「桜澤さん!」

彼の手が私の手をがしっと握る。私もその手を握り返した。

「契約婚、しましょう」

私たちはまだドリンクにすら手をつけていなかった。
出会って三十分ほどで、私と八田史彰は結婚を決め、それから二ヶ月半後にはウエディングベルを鳴らしていた。