僕はその言葉に一瞬、固まってしまった。垢玉は確かに最近有名になりつつある。しかし藍ちゃんのその言葉には、言うなれば「タピオカミルクティー飲んだことある?」のような軽い言葉ではなく、もっと深刻な含みがあった。



 まさか、彼女は垢玉を作ったのか。僕は心臓の鼓動が速くなるのを感じた。



「……知ってる、実は憧れているんだよね」と、僕は答える。



「……作ったの。私」



 と彼女は言った。その言葉を聞いて、僕の脈拍はさらに上昇した。垢玉というのは、入れ墨のようなものである。取り外しはできるものの、垢玉を作ったという事実は決して消えない。垢玉は確かに神秘的であるが、世の中には垢玉を作ることに否定的な人もいる。聞いた話によると、垢玉を作ったことで、就活に不利になることもあるらしい。それによくSNSで「垢玉作ろうかな」と言っているメンヘラ気取りの女子も多く見かける。けれどもそのうち、実際に垢玉を作るまでいった人は少ない。



 また、僕のような物好きな人間でも、垢玉を作ることだけには躊躇を感じている人も実は多い。垢玉とはつまりそういう物なのだ。



「……マジで? それは、すごいね」



 僕の口からは、そんな言葉しか出てこなかった。