ある日の夕方、アパートの一室でのこと。
テーブルの上にあった新聞の折込チラシを片付けると、あるものが目に止まった。
「卵の特売、明日なんだ…。
ねぇ先生、明日は一緒にスーパー行こう。」
「梨香(リコ)ゴメン、明日学校あるからダメだ。」
「えーっ、おひとり様1パック限りなんだよ?」
「仕事なんだから、仕方ないだろ?」
うっ、そうだよね…。
私の旦那様は、高校教師。
私が高校生の頃に見初められて、結婚にまで至った。
7年以上経っているけど、私たちの間にまだ子供はいない。
私が項垂れると、そばから笑い声がした。
高校時代からの親友、アンジェリーナが目尻の涙を拭いながら笑っている。
「アンジェ、何がそんなに可笑しいの?」
「もーダメ、笑い死ぬ…。
マックの存在も知らなかったお嬢様が、折込チェックするんだよ?
だだっ広い庭で、ばあやさんに給仕してもらって、優雅にアフタヌーンティーしてたあのリコが!
『お客様ををお招きすることに反対するような者は、うちにはいません。』なんて言って、家出した私を1ヶ月近くも見返りなしで泊まらせてたコが、特売にダンナ連れて行くんだよ?
笑わずにいられないって!!」
ばしっ!!
小気味良い音がした瞬間、アンジェが頭を押さえて顔を顰めた。